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[SW] LLC 5

[ 二〇一〇年 八月二十九日 ]

午後十時三十分、時間ぴったり。
カンマ一秒の誤差もなくOZへログイン、即座にメールで指定されたプライベートチャットルームへ移動する。
OZ内の事情にある程度通じていなければ使用できないという、いわゆるVIPのみに許されたそこへのアクセスは、秘匿回線を使用するので履歴が残らない。
ログイン時に名前を変えてしまえば匿名性も保たれるが、自分は迷わずに使い慣れたアカウント名を入力した。
むしろ、待ち合わせた相手に誰だか分かってもらえない方が困る。
『サクマ が入室しました』というメッセージログがチャットルームに流れるや否や、先にログインしていた二足歩行のウサギアバターが、開口一番、

『遅い』

自分に向かって鋭く言い放った。

『え、うそ。時間ちょうどなのにダメ出しからっすか? キング厳しいなぁ……』

まだるっこしいからと音声チャットの申請があり、OKボタンを押したところでシュン……と空気が揺れ、部屋にもう一人来訪者が来たことを告げるメッセージが流れる。
電子音が響くとともに、シカの耳をぴこんと揺らした、袴姿の可愛い女性アバターが現れた。

『あ、佐久間くんだ』
『あれ、夏希先輩も? さすが先輩、アバターでも素晴らしく可愛らしいですね。そりゃアイツも見ほれますって』

予想外の人物の登場にちょっと驚いたが、すらりと出てきた自分の言葉に「えぇー」と彼女は目を見開いて。
やーだーといいながらも、楽しそうに笑っているのを見る限り、まんざらではないらしい。

『やっぱり、佐久間くんもお似合いだって思う?』
『気のせいじゃないの』

うっすら頬を赤らめた彼女を、瞬時に切り捨てる硬い言葉。
(キングの声が、ものすごく冷ややかなのは気のせいでございましょうか……?)
内心でたらりと冷や汗を流していると、くるり、とウサギのアバターが自分を振り返った。

『時間もったいないから、あんたのメールで僕が認識したことと事実をつきあわぜて推測したことを並べる。違うなら指摘して。OZが探してるのは健二さんで理由は非常識なコードブレイカーだから。存在が確定されるまでもう時間がない、危機回避には首謀者のあぶり出しが必要』
『うわぁ……ご名答です、キング』

よくそこまで分かりましたね……と、俺は素直に感嘆の声を上げた。
いくつもの偽装をかませて送ったメールには、確かに健二が危ないという内容をほのめかせたものではあったが、具体的なことは何一つ記さなかった。
万が一にも足がつかないようにと考慮した結果だったが、瞬時に落ち合う日付とプライベートルームのアドレスが、簡単な暗号を咬ませて送られてきたのには、
(ほんとに中学生かよ)
と、己の目を疑ってしまった。
世界のチャンプで自分も大ファンであるキング・カズマが、年下の少年だったと言う事実に驚いた自分だったが、仮にも頂点にたった人物が並みの少年であるわけがない。
理解力・判断力・行動力が中学生レベルではないという、冗談みたいな現実が、今はとても頼もしい。

『ここまではOK? じゃ、その先。佐久間さんは僕にOZ内での実権を求めてるんだろうけど……あいにく、今はベルト剥奪でキングじゃなくってね。いくつかの企業にツテはあるけど、使えるほどじゃない。僕にできることは、前にスポンサーにもらってた部屋を提供できる程度。だから夏希ねぇを連れて来た』
『あー、なるほど。了解っす』
『ほんとはこういうときに頼りになりそうなのは理一さんなんだけど、本来の業務ってヤツに戻ってるみたいで、連絡のつけようがなかったし」
『俺もあの人に連絡つけてみようと思ったんですけど、足跡残し過ぎそうでやめたんですよね……』

彼女がいる理由に納得し、同時にそこまで見越して動いた彼を、やっぱりすごいと思う。
(末恐ろしいってこういうことか)
とんでもない化け方をしてくれそうな少年の未来像に、ぞくりと背筋が震える。
ふるりと頭をふって画面を見直すと、シカ耳少女が愛らしくかくんと首をかしげた。

『こーどれすとぶれーかー? え、電源落ちてもコードレスなら充電すればいいじゃない。それがなんで健二くんが危険ってことになるの?』
『コードレスでもブレーカーでもなく、コードブレイカー(Code breaker)。ブレイクっていうより、粉砕ってほうが正しいのかもしれないけど……要は、健二さんは万能鍵ってこと』
『???』
『――パス』
『投げたっ!?』

説明を丸投げして黙りこんだウサギを横目に、仕方ないなと俺は彼女に向き合い、どこから切り出すべきかしばし頭を悩ませた。

『えーっとですね、まず、ラブマシーンの一件に戻ってみましょうか。あの騒ぎで、OZが一番困ったことは何だと思いますか?』
『んーっと……OZ内が大混乱で、システムが使えなくなったこと?』
『正解です。じゃあ、システムが混乱したのは何故でしょう』
『あ、それ知ってる。健二くんが言ってたよね、混乱の原因はアカウントが奪われたからだって。でしょ?』
『大正解。では、そもそもアカウントが奪われたきっかけは?』
『え……えっと、ラブマシーンがOZに侵入したせい!』
『惜しい、半分正解です』

はんぶんーと、と口ごもった彼女に代わるように、ぼそりと声が落ちる。

『OZのセキュリティパスが解かれたから』
『その通り!』

正解を出した声の主は、仕事は果たしたとでも言いたげにまたむっつりと黙り込んでしまった。
どんだけ俺様なんですかあなた。
(……ああ……王様か……キングだけにって、いやいやそんなオチいらないし)

『……ここでちょっと話が逸れるんですが、実はOZ内部で今回の事件以前から、よりセキュリティを強化しようという動きがあって、密かに次のシステムの検証が進んでいたんですよ。そこで彼女の秘密を暴いたのが……』
『彼女?』
『よく船とかハリケーンとかに英米圏では「She」って女性名詞つかいますよね。諸説はいろいろあるみたいですけど、プログラムに対しても開発中のコードネームに女性名をつけることが多いんですよ。これはちょっと眉唾なんですけど、現在のシステムの名前は「ドロシー」って呼ばれてたらしいです』
『ああ、オズだから? ふーん、そういうのちょっと面白い。佐久間くん物知りね』
『ま、完全にいまのは余談ですけど。んで、OZ側としては当然、彼女の秘密、すなわち「セキュリティパスワードを解除したのは誰か」っていう話になりますよね。新しい鍵をかけても、また開けられちゃ意味がない』
『うーん、なんとなく分かった。つまり簡単に泥棒に入られたら困るってことよね。防犯上の問題ってやつ。あ、でも、パスワード解いたのって、健二くんだけじゃないじゃない。しかも最初は間違ってたんじゃないの?』
『ええ、そうです。二〇五六桁の暗号なんて簡単に解けるはずないのに……一晩の内に、全世界で五十五人も解いてしまった。だから、元々の設定に甘い点があったんじゃないかって話も出てきて、実はOZ側としては初回のはそれほど重視してないんです。問題は……』
『――二回目。それも……やっかいなのは、スピード』

ぼそりと落ちた少年の声。
すかさず入ったビンゴな合いの手に、俺は大きく頷いた。

『ぴんぽーん、キング二問連勝大正解。……早さなんですよ、一番問題なのは』
『はやさ?』

内容が今ひとつピンとこないのだろう。モニター画面できょとんと目をまるくさせたナツキが、不思議そうに同じ言葉を繰り返した。

『正確にログを追えたわけじゃないので断言はできないんですけど、一回目もあいつが一番早く返信しちまったんじゃないかと思うんですよ。だから、奴のアバターもそのまま使われたんじゃないかって』

そして驚異的だったのは二回目。
OZのシステムエンジニアが全力で問題解決に当たっていたのに、それよりも遥かに遅く行動したはずの彼が、誰よりも早く正解にたどり着いてしまった。
そして信じられないことに、三回目、四回目と重ねるごとに、そのスピードは加速度をあげてゆき、最後は――まさか暗算で解いたとまでは知られていないだろうが――答えの入力まで一分を切っている。

『有り得ないんですよ。単純に一五〇桁の数字の素因数分解を解くために、一秒で一つの数字をチェックできたとしても約三×十の一四〇乗の年月が必要です。三〇億年が三×十の8乗年だって言ったら、途方のなさがなんとなく分かります? 量子コンピュータでも使わない限り、あんな暗号、解けるわけないんです』
『えーっと……ごめん、佐久間くん。それって簡単に言うと?』

ふう、と俺は息を吐き出した。

『健二は人外だってことです』
『なるほど』
『……それでいいんだ?』

呆れたようなキングの声に、それでいいんですと俺は思いっきり言い切る。
まずは、OZにとって健二の能力ってのはとんでもない脅威なのだと、理解してもらわばければ話にならないのだ。

『前にも言いましたが、大統領のアカウントを奪えば核ミサイルだって撃てるかもしれない。OZのセキュリティに関する問題は、一企業だけではなく、国家レベルになってしまうんです。仮想都市の混乱は、実世界にとんでもない混乱を招くかもしれない。だから、その危険性を身をもって実感したOZ側は考えたんです。新システムを本稼動させる前に、また「鍵を開けてしまうかも知れない人物」を探さなくてはといけない……と』
『OZが健二くんを探してるというのは分かった。けど、どうしてそれが「健二くんが危ない」ってことになるの?』

重要人物としてマークされるまでの流れは理解できたが、それが何故個人の危険になるのかは想像できないのだろう。
そりゃそうだ、一個人に対する話の内容ではない。

『先輩ならどうします。人の家の金庫の鍵を開けたかもしれない人物に目星がついたら』
『なんか逮捕されちゃうみたいね。会って話を聞く、とか……え、でも、おかしい。開いただけで盗んでなんかないし。あの時だって健二くん疑われたけど、結局は濡れ衣だったから翔太兄だって手錠外してくれたんだし、何も悪いことしてないじゃない』

困惑気な夏希の声に、自嘲めいた低い笑い声が割って入った。

『開けただけね……警察相手ならそう。でも、状況はもっと悪い』
『ええ……最悪です』

無表情に見えるが、モニターの向こうの少年は、相当辛そうな表情をしてるんじゃないだろうか。
ふとそんな心配をしてしまうほど淡々とした声だったが、頭痛がしそうな内容に、思わず自分も顔をしかめてしまう。

『毒を喰らわば皿まで……ってのはちょっと違いますね。毒薬も匙加減次第で薬になるってことです。OZはもう、パスワードを解除した人間が、とんでもない演算能力を持っているというのを知っている。どんな鍵を用意しても外から開けられてしまう……だったら、本人ごと身の内に取り込んでしまえばいい』
『え……』

さーっと顔に色を無くした彼女に向かって、俺は起こりえる事態を並べてゆく。

『あいつの全ての行動が、OZの監視下に置かれるんです。行政民間学校、あらゆるネットワークがOZを介して成り立っている今、一度マークされてしまえば、逃れることは出来ない。個人に対してそんな権限があるのかと思うかもしれませんが、OZはもう一企業だけの存在じゃない。後ろにそれを可能にさせる権力があるんです。見つかってしまえば、健二には、決められた未来しか用意されない』

ナツキが、縋るようにぎゅっと両腕を組んで、肩を震わせた。
混乱しているのだろう、何度もふるりと頭をふっては、おかしいと呟く。

『そんな……だって、おかしい。健二くんは救ってくれたのに、わたしたちを、みんなを、世界を、家族を守ってくれたのに……その代償がそんなのっ、あんまりじゃないっ!』

悲鳴のような叫びに、俺はゆっくりと頷いた。
チラリと横をうかがうと、無表情のウサギも同感だとばかりにじっとこちらを見つめている。

『俺も、嫌なんですよ。親友が……あいつが自分の意思でOZに入ると決めたならいい。けど、そんな鳥カゴみたいな生き方させたくない……ってね』
『だから僕にメールを送ったんだよね。ご丁寧に何重にも偽装かけてくれて。あれ結構苦労したんだけど』

付け足されたセリフに、すいませんね、と悪びれずに笑いかけたら、

『佐久間さんって、相当性格ひねくれてるよね』

ぶすっとした声で返されました。
(おー、こういうとこは結構可愛いのな。けど……)
少年らしい反応のくせに、言ってることは規格外。
分かってて口にしているあたり、この相手も相当だ。
何をやるにもOZ経由が必須な今の世の中、電話一本かけるにも別の手段をとるほうが目立つ。
木を隠すなら森の中、つなぎをつけるならOZアカウントの方が痕跡を消しやすい。
生きてるアカウントを、身元を隠しつつ自分だとわからせるようにするには、いかに有能すぎる頭脳を持つ自分(自画自賛)でも、それなりに苦労はしたのだ。

『まぁ、この辺の諸事情に関しても、ちょっとばかりコネがありましてね』
『……ちょっとじゃないでしょ』

やけに確信めいて返された声音に、おや、と思う。
(あれ、ばれた? いやいやまさか、いくら頭の回転早いったって、そこまで……)

『たぶん、従兄弟とか叔父叔母とか、親類あたり。OZの社員なんでしょ、それもけっこういい位置のさ』

じゃなきゃ情報の出所がおかしい――と。
きっぱりと言い切った少年の堂々たる姿に、思わずひゅうと口を鳴らした。

『すっげぇ! またしても超ご名答。さすがすぎるキング、まじすごいですって』
『アドレスで気がつくって。熊とか、僕のこと馬鹿にしてない? アナグラム、でしょ』

《佐久間→サクマ→クマ、サ→bare》
確かにOZからの一斉送信に紛れ込ませるために、bare名義のドメインを使ったが、

『うっわ、ガチで? そこで分かっちゃいましたか』
『僕もOZ関連で仕事してたからね、あそこの異常なまでに徹底した秘密主義にはうんざりしてたし。そう簡単に情報漏えいなんてありえない。しかも一介の高校生が機密事項を事前に入手? おかしいでしょ』

いくら腕があるとはいえ、仮にもプログラムに関わる保守作業に、一回の高校生ごときが簡単に「バイトします」などともぐりこめるものではない。
よっぽど、信頼のおける『誰か』の口ぞえでもなければ。

『えっとまって。それってつまり……』

ナツキがじっと自分を見る。

『どういうこと?』
『やっぱり俺が説明するんですか』

こっくりと頷く気配が画面越しに伝わってきて、俺はがくっと肩を落とした。

簡単に言ってしまえば、彼の指摘通り、自分の身内がOZの社員だったということなのだ。
エンジニアのチーフであるその人が、バイトの口を紹介もしてくれたし、保守に必要だろうという条件をつけて、(もちろん公言してもさほど重要じゃないものに限られたけれど)内部の情報を教えてくれるようになった。
だから、新システムへ移行の前に「パスコードを解いた誰か」を探す動きがあることを察知できたのだ。

『正直、ラブマの一件でもうちょっとOZのシステムは混乱したままだろうって思ってたんですよ。しばらくはその処理に追われてるはずだと……こんなに早く復旧するなんて予想外で、油断してました』

思ったより相手の動きが早かった……と自嘲気味に落とした自分の声に、はっと、息をのむ音が重なる。

『そう、そうよ! まだ健二くんだって、特定はされてないんでしょ。可能性がある人なんてまだまだいっぱいいるんだし……だいたい、新しいシステムだって解けるとは限らないじゃない!』

いいこと思いついた! とばかりにキラキラと目を輝かせた彼女の言葉に、

『…………』

ふかーいため息が二人分、綺麗にハモった。
うん、なんてーか、こう。
(遠い目したくもなるよな)

『――いや、やっちまったんです。アイツ』
『え……?』
『こっちの気も知らずに……あの馬鹿』

OZ側は考えた。
可能性のある複数名から、確実な数名を振り分けるにはどうしたらいいかと。
ふるいをかければいい。
どうやって?
簡単だ――餌をばら撒くだけでいい。
「暗号問題」という、数字中毒にはたまらない餌を。

『数日前、数学関連のコミュニティに、新しい問題が出されたんです。一見ただの暗号問題として出されたのは、新システムの鍵の一つだったんです』
『そしてそれを――あの人は、解いてしまった』

目の前で閉じられた鍵付きチャット。
素性が割れないようにと色々手を回していたせいで、もうちょっとのところで彼がチャットルームに入るのを防ぐことができず。。
ふさふさと揺れる尻尾が扉の向こうに消えてゆくのを、ただ見ているだけしかできなかった。
それでも、より高度になった暗号を解除できるとは限らないのだからと、すぐに自分に知らせが来るように念のために仕掛けを施して……夜明けにレベルアップ音が鳴り響いた時は、(自分で設定したにもかかわらず)ほんとにお前自重しろやと殺意すら覚えたほどだ。
同じように暗号に取り組んだ人が全世界でいくらくらいになるのか推定できないが、確実にあいつは早すぎたはずだ。
だから、時間がない。
OZが健二を見つけるまでの、時間が――。

そう……と、なにやらドスの効いた低い声が響いてきた。
一瞬誰の発言かときょろきょろと左右をうかがい、まさかなと顔を伏せて何か考え事をはじめていたシカ耳の少女のアバターを凝視していると、

『じゃあ、教えて。私に何が出来る? できる事があるんでしょ?』

がばぁ、と顔をあげたナツキが真っ直ぐに俺に突進してきた。

『せ、先輩近いっす!』
『わたしっ、何にも出来ないからって止まってたくない。あきらめたくないし、あきらめてなんてあげないっ!』
『僕も、もう負けてやらない』

いつの間に移動してきたのか、ウサギも一緒になって自分のアバターを見下ろしている。
俺を見据える眼つきが完全にすわっている。
(うわぁああ、さすが血族。この目力、二人ともそっくりなんですけどっ)

『あ、あります、あるんです、二人とも落ち着いてっ!』

押しつぶされそうな迫力に、思わず取り乱してしまった。
ぜーはーと息が上がる。

『早く言いなよ』
『佐久間くん、早く!』
『夏希先輩やキングは、俺にはないものを持ってます。コミュニケーション……あらわしのときに発揮してたじゃないですか、人と人との絆ってやつ。血の通った温かいつながり、それが今、何よりも重要なんです』

下っ端を相手にしても意味がない。
管理権限を持ってるくらいではらちがあかない。
叩くなら頭が勝負の鉄則、OZの最高責任者を特定して引きずり出して、彼の絶対的保護権を奪いとらなくてはならない。

『警視総監にまで電話をかけて叱咤激励したっていう、陣内家の人脈で働きかけて欲しいんです』
『その説得は……僕より、夏希ねぇの方が適役だ』

悔しいけど、と声を詰まらせたキングを、ナツキは無言でじっと見つめた。
きゅっと唇を噛んで小さく頷くと、彼女は決意を込めた表情で、はっきりと宣言した。

『わかった、私やってみる。万里子おばさんに言って、誠心誠意頼み込んで。陣内家でOZに勝負すればいいのね』

そう、これは負けられないゲーム。
勝負を仕掛ける側には何のメリットもない、おかしなゲーム。
けれど、健二に少しでも好意を感じてくれているのならば、きっと手を貸してくれると信じていた。
成功率の低い賭け。
けれど、やらないではいられない。

『だれが、OZなんかにくれてやるもんですか』
『ほんとだよ、横取りなんて図々しいにも程がある』

鼻息を荒くして腕を振り上げたナツキに、珍しくキングが同意を示す。
はっと、二人は互いに真正面に向き合って、

『健二くんは陣内家の立派な婿になるんだから!』
『健二さんは陣内家の立派な嫁にするんだから!』

真反対に、そっぽを向いた。
そーそー、その勢いで……
(ん?)
何か、いま、微妙に不協和音が混じらなかったか――?
気になるというよりは、『特に気がつきたくなかった』ので、違和感はあえてのスルーで互いに明後日の方向を向いた二人に声をかける。

『あとはまぁ、二人とも適当にOZ内で目立つ行動をとっていてくれれば霍乱もできますし。ある程度有名人だったほうが手を出しにくいっていうのもあるんで……って、聞いてますかー?』

大事なことですよー、おーい、と呼びかけてみたが、両者の間にバチバチッと飛び散る火花で、きれいに吹き飛ばされている気がする。
健二を守るのは自分だと激しい闘争の炎を燃え上がらせてる両者には、何を言っても無駄かも知れないと悟り、俺はだまって火災現場から数歩離れた。

ぽり……と、モニターごしに頭を掻いて。
(まぁ、いいか)
上田で過ごしていた健二との会話から推察していた、目の前の二人の『健二に対する好意』は、多少思い描いていた方向とはベクトルの向きが違ったようだが、予定としては変わっていない。
(どうせあいつは気づいてないんだろうし)
多少の細工をしているとはいえ、時間稼ぎがどこまで通用するかは分からないのだから、やる気に満ちてくれる分には結構だと思う。

『あ、そうだ。健二にばれないように気をつけてくださいー』

余計とは思いつつも、一応ひっそりと念を押しておく。

『もちろん、私たちが守ってあげるんだから!』
『健二さんを、危険な目にあわせるわけないでしょ!』

瞬時に帰ってきた噛み付くような声に、
(いや、っていうか……俺の懸念してるのはむしろ逆なんですけど)
という真実は、口に出さない方が賢明だと確信した。





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