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[SS-SW] コーヒーブレイク side:A

佳主馬→→←健二くらいの未来の話。
3年後くらい。
佳主馬は通い妻(夫?)

前の拍手につっこんでたもの
■コーヒーブレイク side:A


しゅんしゅんと、お湯が沸いた合図を出しているポットの音が耳に届いてからすぐのこと。
ふわり……と、独特の苦味をはらんだ香りが鼻先をくすぐった。

わりとカフェインを大量摂取する機会が多いくせに、健二さんの家にはコーヒーメーカーがない。
面倒ではないのかと思うのだけれど、「なんかこの行程が楽しくて」……と、本当に楽しそうにわざわざ1回ごとにグラインダーで豆を挽いて。
丁寧にドリップしてくれた淹れたてを、自分の専用のマグカップにたっぷりと注いでくれて。

ノートパソコンの横に常備してあるコースターの上に当然のように置いてもらえるのだから、文句のつけようがない。
どうぞ……とかけられた耳ざわりの良い声に、打ち込みと中の画面から目を上げて、目を見つめてありがとうと返して。ほわりと湯気のたつそれを最初に口に含んだ瞬間、広がった濃厚な香りに、あれ……と首を傾げる。

「種類変えた? いつものより、濃いね」

あ、気がついた? と俺に向けられた声がちょっとはずんでいる。

「さすが佳主馬くん、舌が肥えてるね」

聖美さん料理上手だし、小さいころからちゃんとしたものを食べてるからだよね……なんて感心したように何度も頷いて。
それもあるんだけど、なんて言いながら緩む相手の目元が、ちょっとだけ赤くなってることに気がつく。

なんで健二さんが照れてるわけ?

「豆を変えたっていうのもあるんだけど、実はお店の人にちゃんとした淹れ方を教えてもらってね」

「……淹れ方?」
「うん。僕が今使ってるドリッパーはコーノ式っていうのなんだけど……円錐型で、抽出の穴がひとつのものなんだけど。前に使ってたのが三つ穴タイプのだったから、どうもそこで間違ってたみたいで」
「ふうん……」
「一つ穴タイプのって、お湯を注いだ時にホールドされないんだって。だから、
注ぐんじゃなくって、水滴みたいにそっと細く落として……えーと、これくらいかな」

白く細い指先が、視界の先ですっと動いた。
親指と人差し指でまるを作り、3cmほどの円の向こう側で俺の心を遠慮なく揺さぶってくれる穏やかな瞳がふわりと笑いかけて、どきりと胸がはねる。

「粉の上に乗るくらいに湿らせて、これで30秒蒸らしてから2~3回で人数分のお湯を注ぐ。……この、一番最初が肝心なんだって。僕知らなくって、粉全体にいきわたるくらいにお湯をかけちゃってたんだ」

今までごめんね……とか。
好きすぎてどうにかなってしまいそうなぐらい(いや確実にどうかしてるという無駄な自信はあるけど)愛しい相手に可愛らしく言われて、怒れる男がどこにいるものかと。

「別に、全然気にならないし……」

なんて愛想もオリジナリティーのかけらもない相槌を返しながら、手持ちのカップからこくりと一口飲み込むと、深炒りの豆の香りが、どかんとダイレクトに胃の腑へ直撃する感じを受ける。

確かに、胸に一度ためてから胃の中に落ちていったような感覚があった前の味より、幾分深みが増してる……気がする。
正直そこまではっきりした違いが分かるわけじゃなかったけど、

「うん、美味しい。……前もの美味しかったけどね」

と呟けば、ありがとう…ってはにかむ様な笑顔が返ってきてくらりとする。
ちょっともう仕事モードに戻れないんだけど、どうしてくれるの。
動揺しまくる意識とは裏腹に、スピードを増したタイプ音に紛れるように「お世辞じゃないんだけど」……って言葉を続けたら、意外にも「そこじゃないよ」と反論の声が上がった。

不思議に思って視線を上げると、包み込むようにやわらかい二つの瞳が真っ直ぐに俺を見つめている。


「おいしいの、一番最初に飲んで欲しかったから」


好きな人に喜んでもらえて良かった――ありがとう……と。
破壊力抜群過ぎる言葉と笑顔に、一番手放してはならない何かが崩壊しかけたという話。




「じゃあ佳主馬くん、お仕事がんばって」

幸せ絶頂でぐらぐらゆれる俺を前に、相手はあっさり本片手にソファーに逆戻りとか。



――ねぇこれ、なんの罰ゲームなの…!?


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