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[SS-SW] 夏の残滓

佳主馬くん13歳で残暑な話。

夏希→健二←←←佳主馬 で佳主馬が悶々としてます。
思春期ですねー(棒読み)


上田での夏の空気がカラッとしていて、暑いけれど気持ちが良くて。
同じ夏でもこんなに違うんだなぁ……とか思ってたら浮かんできました。

共有できる思い出があるっていいですよね。


■夏の残滓


今年の夏は異常だ。
それは分かっている。

毎年の恒例行事にしたがって、夏休みに入ってすぐに上田の屋敷に集まってみれば、ほんのりと憧れを抱いていた親戚のお姉さんが、いかにもうらなりひょうたんといった頼りなさげな婚約者を連れてきているという、大人たちの話を耳にして。
ピッツバーグの研究所から逃げ出したというAI、ラブマシーンというが仮想都市OZを大混乱に陥れて、その犯人がウワサの婚約者もどきだと騒ぎになって。
大おばあちゃんを筆頭に一族総出でなんとか収集つけてみれば、騒ぎの原因が身内だと判明し、屋敷の中が険悪な雰囲気になって。
騒ぎの最中に大好きで、人嫌いの気がある自分ですら心から尊敬していた、栄大おばあちゃんが亡くなって。
(行き場のない、どうにもやるせない気持ちを抱えていたみんなを、前を見るというシンプルで難解な方向を示した人の存在に気がついて)

  挑んで、戦って、負けて。

世界を救ったのに、あらわしが自分たちめがけて落ちてきて。
見ていることしかできない自分と、応援すら満足にできない自分に歯噛みして。
守れなかった自分が情けなくて、立ち向かうことを諦めてしまっていた自分が悔しくて。

  同時に。
  『一生適わなくてもいい』と、思える相手に出会ってしまったことを、自覚した。


時間も逃げ場もなくて、絶体絶命の絶望的な瞬間でも、決して諦めない強い光を帯びたあの人の瞳を思い出すたびに、じくり……と胸の奥がうずく。
無意識に握り締めていた手のひらが、じっとりと汗ばむのは、夏の暑さのせいだ。
全てそうに違いない。
今年の夏は暑すぎたから、起こった全ての出来事はいままでではありえない異常事態なんだ。
それは分かっている……そう、何度も繰り返し自分に言い聞かせなければならないほど。



実は、僕は、目の前の状況にそうとう混乱していた。



「なんで……これで熟睡できるわけ……?」

ぼんやりと呟いた自分の言葉が耳に入り、やっぱりそうなんだと再度状況認識。
ついでとばかりに、すぅすぅと繰り返し聞こえてくる寝息は本物だ。
ちらりと視線を下ろすと、四歳上という年齢差の割にはひどく子どもっぽく見える無防備な相手の寝顔が、息をのむほど至近距離で目に映る。

 ――あ、まつげ、結構長い。

小さな発見に、自然と息をつめてつぶさに見入ってしまう。
気がつくと彼の姿を追いかけているという、どこの恋する乙女なのかといわんばかりの行動をしている自分だけれど、さすがにここまでじっくりと相手の顔を観察する機会などなかった。
初恋の相手にして絶賛恋敵進行中の『彼女』が、二人っきりになろうとすればすかさず邪魔をしてくるせいだ。

「私が連れて来たんだから、優先権は私にあるわけでしょ。婚約者から彼氏候補になっただけ! 佳主馬は健二くんと何の約束もとりつけてないでしょっ」

……と。
開き直りも天晴れなくらいに、『彼』に対する所有権利を主張した親戚のお姉さんであるところの篠原夏希に対して、

「それも頼み込んで一時的に期限付きで承諾してもらっただけでしょ。婚約者なんて、あっさりバレてご破算になってるし。だいたい候補って何? まともに告白したわけでも付き合ってるわけでもない、予定未満の宣言されても意味ないよね? 夏希ねぇ、悪い……なんて微塵も思ってないけど、健二さんは僕がもらうよ」

とやり返し、真っ向から勝負を挑んだのは自分だ。

あまりにもあっけらかんと言い放ったために、家族や親戚一同は驚愕を飛び越えてしまたらしい。


「なんていうか、こう。世間の常識を諭すのも馬鹿らしいというか」
「互いに倫理観を華麗に無視してるところが、いっそ清清しいっていうはなしも」
「難しい子なのに、よくもこんなに手なずけたもんよねぇ」
「あー……それでいいんだ?」
「よし、こうなったら二人ともトコトン戦え! いかなる勝負も武士の魂を賭して死力の限りを尽くすべし!」
「それたぶん、シャレになりませんよ~」
「あのー、どうしてこれで小磯さんは気がつかないんでしょう?」
「もう、健二くん相手なら何が起こっても納得するわよ」


以降、親戚中があきれ返るくらいに、堂々と夏希と昼夜問わずに争奪戦を繰り広げている。
けれど、あそこまで全力全開で人目も憚らず言い合えたのは、戦利品……もとい、片思いの相手である『彼』が想像を絶する奇跡の鈍感だったせいだ。
どんなに『好き』だの『自分のもの』だと叫んだところで、彼は自分に対する言葉だとは微塵も思ってはいない。
よしんば自分に向けられた声なのだと気がついたとしても、夏希と僕との仲を邪魔している存在なのだと勘違いする始末だったり(どうしたらそういう考えに至るのかと本気で一度頭中身を解剖してやりたい。きっと0と1ばかりなんだろうけど)。
だから、

「もー、佳主馬ってばどうして顔色も変えずそんなこといえちゃうわけ? 可愛くないっ」
……なんて、自分でも気障だなと思ったセリフに対して、頬をふくらませた夏希から抗議をうけたときも。

「別に、本心だし」

さらりと流れるように答えて、平静な顔でいられたのだ。

穴が開くほど凝視しそうになった僕の視線を感じたのか、ん……と身じろいで横向きになった彼の仕草に、あわてて視線を逸らす。



 ――だからっ。なんで、どうして。



僕が、健二さんに、膝枕してるわけ……!?


どうしてこんな状況になったのかと必死で頭をめぐらせてみるが、うまく思考がまとまらない。
いくら自分が年の割には大人びているだとか、思考も行動も中学生規格外だとか言われても、どうしたって中身は必死で背伸びしている十三歳の子どもでしかない。
余裕の顔を取り繕えられたのは、あくまでも相手が夏希だったからだ。

彼女は、顔は親戚の贔屓目から見てもかなりの美人だし、大おばあちゃん譲りの武家の血がそうさせるのか、高校の部活で熱心に剣道に取り組んでいるため、身体は引き締まっていてスタイルも良い。
実際、通っている高校ではかなりの人気だと、あとで健二の親友である佐久間に聞いたことがある。
普通に考えてみれば、年下で親戚の弟のような存在の自分など、歯牙にもかけないはずなのだ。それなのに、夏希は自分を同等の相手とみなして戦う。
子どもっぽいというか……いや大人気ないというか……いやいや短絡的だというか……ともかく、彼女の態度を不思議に思って掴まえてみたことがある。

「夏希ねぇって、子ども相手に容赦ないよね」
「あら、手加減してほしいの?」
「いらない。本気だって思ってもらってるってことだから、そこは感謝してる。でも無謀に攻撃的な割には、子どものクセにとか男同士なんだろとか、そういうこと全然言わないんだなって」
「もう、攻撃的は余計でしょ! ……んっと、たぶん日常に戻っちゃうとそういうこといろいろ考えちゃうんだろうけど、今はまだどっかふわふわしてて現実味がないっていうか。あでも、真剣じゃないってわけじゃないからね」

慌てたように付け足した彼女は、何故か、ちょっとだけ辛そうに唇を歪めた。

「……言えるわけないじゃない。子どものクセにとか、そんなの……私だって……。佳主馬にはちょっと感謝してるんだよ。健二くんに対する言葉の時の顔とかすごく真剣だったから、ああ、そっかって。思い出させてくれて、ありがと……って……」
「夏希ねぇ?」
「なんでもない。お礼の時間終わり! あとは全力でフルアタックするのみなんだから」
「本気で意味わかんないんだけど。頭大丈夫? あとさ、全力はいいんだけど、肝心の相手には微塵も伝わってないけどね」
「……それなのよねぇ……」

あの破壊的鈍感人間、どうすればいいと思う? なんて。
ライバルであるはずの自分相手に、本気で相談するんだからあきれてしまう。
彼女も自分の行動のおかしさに気がついたのだろう、「あれ?」なんて首をかしげて、「私たち恋敵よねぇ?」なんてわざわざ確認して、目を合わせてお互いにぷっとふきだした。

争奪戦を繰り広げている時は、本気の相手だと思ったからこそ、常に冷静でいられた。
企業相手の仕事の顔をしている時も、企画という勝負を挑んでいると思えば、あらゆる攻撃を想定して渡り合い、余裕でいられた。

けれど、中学年という素の自分にとって、今のこの状況はたまったものではない。
もぞり、と膝上の人物が動く気配がして、びくんと肩が震える。

 ――もう、冗談じゃないよっ。

思わず視線を下に戻してしまったら、寝巻きの襟ぐりからのぞく白い肌と、くっきりと浮かび上がる鎖骨をモロに拝んでしまい、ごくりと空唾をのみこんだ。
異様なほどに心臓が早鐘を打つ。
全身の血が逆流したように背筋を這いのぼり、熱を帯びたように顔が火照ってきているのがわかる。
手のひらには、今まで以上の汗がにじんできた。

 ――寝姿が色っぽいだなんて反則だ!
 
愛しい人のあられのない姿を見せ付けられて、平気の平左でいられるわけがないのだ。
もったいないことこの上ないけれど、口から飛び出そうな自分の心臓保護のために、少しずつ離れる努力をしてみることにする。
ほんのちょっとだけ、自分の足をずらしたら、んんーと文句の様な唸り声があがって。
思わず動きを止めると、くるり、と。まるで、離してなるものかといわんばかりに相手の顔が下を向いて。
短パンをはいていた自分の足を割り込んで。
ひそやかな吐息をひざに吹きかけられ、彼の生暖かく柔らかいほっぺたの感触をダイレクトに感じてしまうハメになってしまい。


 ――!!!!???


思いっきり、心臓がどくんと跳ね上がった。












「うわぁああああっ……!?」


掛け布団を跳ね上げて飛び起きた自分の声に驚いて、あわてて両手で口を塞ぐ。
目の前は暗闇。
しん……と静まり返る部屋の中で微かに聞こえるのは、一区画隔てた向こうの大通りで飛ばしているトラックの排気音程度だ。
耳をそばだてても、家人を起こした気配はない。
ほっとしながら、枕元で充電していた自分の携帯に手を伸ばす。
開いた液晶ディスプレイには、真っ赤なダウンジャケットを着たウサギのアバターと、現在時刻を示すワールドクロックがくるくると回っていた。
午前二時三十五分。立派な真夜中だ。

 ――うん……まぁ、こうなるよね。

あまりにもあり得ない展開に、自分自身でもおかしいとは思っていたのだ。
けれど、本当に夢だったと分かると、もったいないという思いがむくむくとわきあがってくる。
せっかくだから、もう少し彼の体温を味わっておけば良かったと、今更ながらに後悔する。
上掛けを握った手のひらが、夢と現の境目をぼやかすぐらいに、じっとりと汗ばんでいた。

がっくりと肩を落とし、はぁー……と深い息をつく。
吸い込んだ空気は、熱帯夜の続く名古屋にしては珍しく、爽やかなものだった。

 ――たぶん、原因はこれだ。

上田で過ごした夏の日々は、日差しはきつくて暑いけどむっとするような湿気はなくて、風がさらりと吹き抜けてとても心地が良かった。
同じ夏でも、上田と名古屋では暑さの種類違う。
名古屋に帰ってくると連日猛暑日が続き、寝苦しい夜が残暑を過ぎてもなお後を引いていた。
例年よりはかなり厳しい暑さではあったが、名古屋で過ごす夏の名残がじっとりとしているのはいつものことで、「暑いな」とは思えど、時に気にせずにいられたのだ。
なのに、低気圧だか高気圧だかのいたずらで、ぽっかりと今日だけ、珍しく蒸し暑くない夜になった。
涼しいとまではいえないけれど、からりとした風が肌を撫でる感触。
それが、自分に上田の夏を思い出させたのだろう。
身体がほんのり火照っているのは、少しだけ残った夢の余韻のせいだ。
というか、夢にまで見るほど相手に飢えているってことなのか……と気がつき、夢の中のクセにリアルな肌の感触を思い出して顔が熱くなってきて、ぼすっと枕に顔を突っ伏す。

 ――お兄さんが悪いんだ。

負け惜しみだってことは分かってる。
言いがかりだって事も百も承知の上だ。
それでも、言わずにはいられない。

好きだと思ったのは、実は本当に夏の錯覚で。
みんなを救ってくれたヒーローに対する一時的な憧れにしかすぎなくて、恋心なんていうのはもしかして気のせいだったんじゃないか……そんな、微かな望みを今夜の一連の出来事で粉々に打ち砕かれたような気がするのだ。
動悸、息切れ、眩暈……わかりやすい諸症状の嵐にさらされ、こうなっては否定要素を探す方が難しい。

「僕ばっかりなんて、割に合わないよ」

ひっそりと口にした声は、思ったよりも数段甘く部屋に落ちた。


同じように夢を見て欲しい、なんていわない。
けれど、こうやって上田での時間を思い出してくれる時があるのかな、と。
一人ではないことに気がついて、彼が笑っていてくれればいいと願う自分は、それだけで幸せなのだから。






これ以上は眠れないと思ったけれど、成長期の身体は睡眠を欲していたらしい。
再び目を覚ました時には、もういつものむっとする湿気の中で。
寝過ごした僕を起こす母さんの声に急かされて家を出た自分は、学校から帰るまで知らなかった。
リビングのテーブルの上に、健二さんからの残暑見舞い葉書きがそっと置かれていたことを……。









『 残暑お見舞い申し上げます
  池沢家の皆さんお元気ですか?
  東京も暑いけれど、名古屋は連日猛暑日だとニュースで観て、
  みなさんは大丈夫だろうかと心配になり葉書きを書きました。
  この夏の上田でのことを思えば大抵のことは平気かもしれませんが、、
  みなさん、体に気をつけて残暑を乗り切ってください。
  
  小磯健二

  追伸
  上田での出来事を思い出すと佳主馬くんの顔が浮かぶよ。 』
 








おわり


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