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[SS-SW] ここにいるよ

佳主馬×健二×佳主馬で未来のお話 実家編ぱーと2

カミングアウトのあとはやっぱりこう、ちょっとは、ね。
……なんていうのは建前で、腰抜かしたかっただけです。
言葉どーりの意味です。



■ここにいるよ




ガラリと洗面所の引き戸を開けると、歯ブラシを片手に持った真緒と、正に歯ブラシを口に突っ込んだ状態の真悟が、大きな鏡越しに俺を見つめた。

「あ、佳主馬兄」
「かふまふぃいだ」

千客万来満員御礼。大家族に準じて小さいわけではない洗面台だったが、さすがに三人は狭すぎる。出直そうかと思ったのだけれど。

「今空くから、ちょっとまって」

といい置きながら。ガラガラとうがいをはじめた真緒に、

「………ん」

と軽く頷いて壁に寄りかかった。
部屋を出るときにチラリと見えた壁掛け時計の針は、確か十一時過ぎをさしていたはずだ。子どもにしては宵っ張りすぎるんじゃないかと思ったけれど、同じくらいの年頃だった自分を思い出すと、到底人のことを言えるような生活態度じゃなかったもので。
余計な事は口にせず、黙って順番を待つことにする。

「佳主馬兄さぁ~」

うがいを終えて、歯ブラシを上田での自分定位置に戻して。口元を拭きながら、真悟が俺を見上げてきた。
「オトコが好きなの?」
「…………はぁ?」

割と理解は早い方だと自認しているんだが、それでも質問の意図が頭に浸透するまでたっぷり十秒は間が空いた。まじまじと見返すと、真悟は居心地が悪そうに瞬きはしたけれど、視線を逸らすようなことはしない。
「いや、他に好きになったヤツとかも男だったのかなって、ちょっとした興味なんだけど」
まだ幼さが残るその顔には、純粋な好奇心があっても、拒絶や嫌悪が微塵も見当たらなかったので。
別にいいかと素直に答えてやることにした。

「さぁ? 初めて好きになった他人だから、比べようがない」
「えー、俺たちよりもかよ。つめてーの」
「他人って言っただろ」

ため息とともに吐き出せば、「何聞いてるの」と弟に対して終始呆れ顔だった真緒が、それは聞き捨てならないと身を乗り出してきた。

「え、他人じゃないよ」
「健二兄ちゃんだって身内だったじゃん。栄ばーちゃんが認めたんだろ」
「あたし覚えてるよ。夏希姉が彼氏だって連れてきて、大おばぁちゃんがうちの立派な婿さんだって言ってた」
「万理子ばーちゃんだって、『さすがお母さん、せんけんのめいがあるわね』とか言ってたしさぁ」
『先見の明』くらい漢字で言えるようになってから出直して来い、と言い捨てても許されるだろうか。
「だから……」

ああ、もう、めんどくさいな。どう言ったら分かるのか。
説明しろと言われても根本的に無理な話なのだ。自分にとっては、理由など必要ないくらい明らかなことだというのに。


「だから――他人だった時から、好きになったんだよ」


うーわー…と、ため息のような声が小さく響いた。

好きなのだと気がついたのは、あの事件の後のこと。
けれど、好きになったのは最初から。
憧れでも尊敬でもなく、触れるたびに声を交わすごとに揺さぶられた強すぎる感情。強さも弱さも脆さも、あの人を成す全てに心が魅せられて。一緒にいられる時間が長くなるほどに、幸せそうな笑顔が見られる機会が増えるごとに、甘さと共に苦く焼け付くような感情の嵐が、俺の内側を侵食していた。

――君が巡り会うかもしれなかった、全ての人との出会いを……僕は、奪ってしまったのかもしれない。

自分を責めるような響きをこめて、あの人は透明な笑顔でそんな淋しい言葉を口にする。必要ないのに。貴方が手に入るなら、他の人と出会うかもしれない時間なんて要らない。彼以外の人間なんて、目に入らなかった。
好きで好きすぎて愛しすぎてどうしたらいいのかわからなくなってしまうくらいに貴方のことでいっぱいになって。抑えきれないくらいに気持ちが溢れて、たぶん、知らずに相手を追い詰めたりもした。逃がしてあげるつもりも、誰かの手にゆだねるつもりもなかったけれど、拒絶されることだけが怖かった。

よわすぎる人だから。
やさしすぎる人だから。
ずるすぎる人だから。
つよい人、だから。

一人の人間として、真剣に『僕』の言葉を受け止めてくれて。一緒にいることを、隣にいることを、選んでくれた。
たぶんこれは、二度とはない奇跡。
絶対に、離れてなんかやらないし、放すつもりもない。

「あの……かずま兄ちゃんさ……」
「何?」

まだ何かあるの……と、気もなく先をうながせば、真悟がどこか所在無げに視線をさ迷わせた。

「気がついてないみたいだけど、けんじにぃが……後ろで腰抜かしてるから、さ」
惚気るのもそれくらいにしといた方がいんじゃね? ……と続けられた言葉に、唖然とする。

「え? ちょっと健二さん、どうしたの!?」

慌ててふりかえると、愛しいその人が戸口のすぐ手前でうずくまっているのが目に入った。膝を抱えるように顔をうつぶせにしているので表情は見えないけれど、腕の隙間から見える彼の耳が、林檎のように真っ赤になっている。
入れ替わりに「じゃあ二人ともおやすみ~」といいながら真緒が真悟を引きずって行くのがチラリと見えたが、それどころじゃない。

「………かずまくんって。どうしてそう恥ずかしい言葉をさらっと口にしちゃうかな」

しかも似合ってるし、心臓に悪すぎるよ……とか。
ボソリと呟かれた相手の言葉の内容に、どっちが! ……と思わず叫び返したくなる。
まったく――よく言うよ。

「それはこっちのセリフ。さっきの広間での健二さんの爆弾宣言の方が、よっぽど恥ずかしいって分かってる?」

かがみ込んで背中に手を当てたら、ええ、そうかなぁ……、と不満そうな呟きが返ってきた。そうかなっ……て、どんだけ俺が驚いたのかほんとに分かってないの?

「……死ぬかと思ったんだけど」

幸せすぎて――と続けたら、ぱっと顔を上げた彼の顔が不満そうにむくれていた。

「それは困ります。僕を一人にしないって約束してくれたの、佳主馬くんなんだから、ちゃんと約束守ってよ」

………はい?

「あと、これまでの時間と、これから先の時間まで。ずっとずっと、僕が貰っちゃうわけだから。一緒にいさせてくださいって、頼むのは当たり前だと思うんだけど」

真顔で言い切ってくださりましたよ。両腕を俺の首に回して、甘えるように肩口におでこをくっつけながら……って。
もう据え膳万歳状態なわけだけれど。

「………健二さん、ほんとは相当酔ってるでしょ」

両腕を背中に回して軽く抱きしめたら、えへへ、酔っ払っちゃったみたい……とへにゃりと笑いかけてきた。節操なくうちの一族を魅了してくれる全開の笑顔に、ああ、やっぱりかと頭を抱えたくなる。
夏希を振るとは許さん、しかし手を出すのはもっと許さんと支離滅裂なことを口走りながら、絡みまくっていた性質の悪い人間の顔を思い浮かべる。

「勘弁してください」なんていいながら、健二さんが楽しそうだったから視線でけん制するだけにしておいたけど(すれ違い様に訳知り顔の理一おじさんに哀れむかのようにぽんと肩をたたかれたけど)、ちょっと度が過ぎたみたいだね。
後で骨身に染みるように叩き込んでおこう。

「ほら、健二さんあんまり強くないんだから……」

歯磨いて、部屋に戻ろう……と促した自分の声にかぶせるように、健二さんが俺を見上げてほわりと微笑んだ。

「うん……いつも佳主馬くんに、酔わされてます」

……ねぇ、ほんとに俺を殺す気?

「……場所がここじゃなかったら、ただじゃおかないんだけど」
「あはは、色気がなさすぎるよね」

まったくもってその通りなんだけれど、ただ引き下がるのも非常にもったいなかったもので。意趣返しとばかりに軽く唇に噛みついたら、お返しに笑いながらちゅっと鼻の頭にキスされて、危うく理性が崩壊しかけたとかそんなこと。



やっぱりこの人には敵わない。


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