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[SS-SW] そこにいくよ

佳主馬×健二×佳主馬で未来のお話。

健二が社会人(社壊人?)、佳主馬が大学生という想定で。
あ、ここにのっけてる話しは全部同じ時間軸の上にあります。

なんか健二さんってこういうことしそうだなぁと。
あと、大好きな一族の皆様も書いてみたかったv


さーて。
そろそろストックが尽きてきたぞ……。



毎年恒例行事となった、曾祖母にあたる栄大おばあちゃんのお誕生日会も、今年でもう六回目を数える。
波乱万丈ながらも「幸せでした」と言い切り天寿を全うした、陣内家の歴史の中でも稀代の女傑と言わしめた十六代当主に代わり。
本家の長となった万理子おばさんの、

「母さんには法事なんて辛気臭い言葉は似合わないかもしれないわね」

……という、極めて礼儀と作法と常識を鉄壁過ぎるほど兼ね備えた人とは思えない発言に、根っからお祭り好きの一族連中が否と言うはずもなく。揃う頭数こそ、その年によって多少の変化はあったけれど、あの事件からいっそう親族の結束が強くなり、近況を兼ねたただの宴会になりつつあったその行事に集まる顔ぶれに宿る表情は、いつも明るかった。

各々に仕事があり家庭があり、生きる道が違えば過ごす時間も変わってくる。
毎日を一緒に過ごす人がいればなおさらのこと。
行きたいかなと心は向いても、常に足を運べる訳ではない。

あの場所に、何があるわけでない。

先陣に立ち道を示し、「あきらめなさんな」と背を押してくれた厳しくて優しい声の主はもういない。
けれど、自分たちの全てはあの場所ではじまったのだから。

だから。

今年は行こうか……と彼の方から話を切り出されたときには。
未だ一族の輪の中に入ることにどこか気後れしているらしい相手にしては珍しいことだと驚きつつも、素直に嬉しいと思った。







■そこにいくよ





「うわ、この鳥の甘酢煮超おいしそ~。奈々さん腕あげたわねぇ」
「太助さんの分って、赤ワインでいいんだっけ~?」
「あ、ちょっと真悟。グラスたんないからそっちの奥の棚からもってきて」
「あーっ、直美さんつまみ食いしちゃだめですってば……翔太さんも一緒になって、もう~!」
「みんなーごはんできたわよー」

ぽんぽんと矢継ぎ早にセリフが飛び交う騒々しい会話の間で、早く席に着けと手招き付きで促す師匠の声がする。面倒見のよすぎるきらいがある親類たちが決して嫌いではないけれど、騒がしいのは苦手だというのは変わらない。数年前までの自分ならこの賑やかさが煩わしくて、みんな揃っての夕食時間を狙って仕事を入れて、一人納戸に篭っていたところだけれど……今は違う

一人になりたいということよりも、一人にさせたくないという絶対的な理由がある。

テーブルの上に夕飯のおかずが山と積まれた広間に足を運び、用意された席に座った。右隣に腰を落とした太助おじさんが、「おお佳主馬、またでっかくなったね~」……とにこにこ笑いながら当然のように差し出すグラスを、「俺まだ成人してないんだけど」と苦笑気味に受け取った。「いいのいいの」……とかすごく楽しげに笑ってるけど、ほんとに良いわけ? 誰が責任取るの? 現職警察官だっているくせに、いい加減なんだから。
まぁ、ビール程度では早々酔いもしないし、親戚一同が集まる田舎の宴会なんてこんなものだろうけど。ただ連れであるあの人の行動には注意しとかないと、と自分の気を引き締める。飲めなくはないけれど、断りきれずに杯を重ねて気がつくと飲まれてる……なんてことの方が多いから、放っておくとこのノリの良すぎる親戚一同のオモチャになってしまう。
つらつらとそんなことを考えていたせいか、少し意識が反れていたらしい。佳主馬くん、と囁くように耳元で名前を呼ばれて、はっとする。いつの間に隣に来ていたのか、内緒話でもするかのように声の主が膝を落として自分に向かってかがみこんできていた。
顔を上げ、何? ……と瞳で問えば、愛しくてたまらないその人が自分に向かって小さく笑いけてきて。彼は男にしては少し華奢すぎる手をするりと伸ばしてきた。

「健二さん?」

疑問符混じりの俺の声には答えず、弱くも強くもない力でそっと俺の腕を引く。一緒に来て欲しいと言わんばかりの行動が彼らしくなく、ますます不思議に思って視線を返すと、口は閉ざしたまま健二さんは少しばかり困ったように軽く眉を寄せた。口元は笑んでいるくせに、添えられた手が小さく震えていて。ほんわりとした笑顔の下でどんなことを決意してるんだか分からないけれど(このひとは頼りなさそうに見せかけて自分が決めたことは頑なにやりとおす頑固者だから)、何かに緊張してるってことが如実に伝わってきた。
訝しく思いながらも、戸惑い気味の表情も襲いたくなるほど可愛いな……なんて思いながら促されるままに席を立つ。

あ、後れ毛。

ちょうど目線の下にあった相手のうなじ寄りの後頭部に、ピンとはねた短いひと房を見つけて、昔は見つけることの敵わなかった小さな発見に思わず口の端が上がってしまう。
追い抜くのもたいした時間はかからないだろうなとは思っていたけれど、人並み以上の成長率でぐんぐん身長が伸びて。頭一つ分足らずの差がついたのは、確か出会ってから四年目くらいだったと思う。そんなに急いで大きくならないでよ……と、どこか恨めしげに呟いて見上げてきた相手に、当然の結果でしょと鼻で笑って返した。

 ――そこをなんとか! キングなんだし。
 ――自然の摂理に無茶言わないで。

でもずるい……とか。
でも早すぎ……とか。

あきらめ悪くぶつぶつ言う相手を、身長差をフル活用して実力行使で抱きしめてみたら、耳まで真っ赤になって黙ってくれたけど。俺だって必死だったんだからと耳元に吹き込むと、そうなの? と不思議そうな顔。
当たり前でしょ。こんなことくらいでしか、貴方に勝つことなんてできないんだから。
一族連中が夕飯の温かい湯気と匂いにつられてぞろぞろ座卓に集まり、「いただきます」の声のために席についている中を二人ですり抜けて。何だ何だ……という興味津々の視線を受けながら、彼は迷いのない足取りで一番上座である万理子おばさんの横まで進んでぴたりと止まった。
何事かと目を瞬かせる彼女に向かって、ぺこりと軽く一礼。ご無沙汰してました……と微笑みながら、つと、膝を折り。膝下から足の甲を床につけ、尻を両かかとの上にのせて座る。
これぞ見事な、古式ゆかしきザ・正座。

「健二さん、お久しぶりね。いつでも来てっていってるのに、ちっとも顔をみせてくれないんだから。あら、また細くなったんじゃないの。陣内家の行く末は貴方の腕にもかかってるんだから、しっかりご飯食べてって精をつけてちょうだい。役に立たない男手なんて、うちには必要ないんですからね。佳主馬なんて理一と変わらないくらいになって……邪魔なくらい育ちすぎちゃってるんだから、負けちゃだめよ」

気風が良くて面倒見も良くて、何より段取りを重んじる彼女があけすけな物言いをするのは、相手に気を許してる証拠。威勢の良すぎる言葉のなかには優しさがあるのを、もちろん彼もちゃんと分かっている。あはは…と気弱げに笑って返しながら、すいっと両手を揃えて膝前につく。

「はい、お久しぶりです、ちゃんといただきます……じゃなくて。……あの、今日は、ちゃんと万理子さんに……というか、皆さんに話しておきたくて」

ぺこりと頭を下げたままで落ちる言葉。
たどたどしい声なのに、どこか凛として。
低すぎるくらいに控えめな声なのに、騒がしい広間を縫うようにすっと通り抜ける。
いつも自分に自信がなくて、お人よしを通り越すくらいに優しすぎて、優柔不断で不安気に心がゆれることが多いくせに、ふいに見せる芯の強さ。

――ああ、またこの目だ……。

ゆっくりと顔を上げた彼の瞳に、不意打ちで宿った揺るがない強い光を見つけてしまい、ざわりと胸が騒ぐ…なんて自分自身の心持ちを分析できるくらいには余裕だった。
今度は何をやらかす気なのかと息を詰めて見つめるその先で、彼は大きく息を吸い込み。ゆるりと開かれたその薄い唇から………とんでもない一言が転がり出てくるまでは……。


「佳主馬くんと、付き合うことになりました」


ガヤガヤと騒がしかった周囲の喧騒が、一瞬にしてしん――と水を打ったように静まりかえる。
ぽかん…と、口をあけて固まっている面々の中で、きょとんとした顔で大人たちを見上げているのは六歳になる自分の妹の佳南美(かなみ)くらいで。
もちろん自分だって例に漏れず、呆然として言葉も出なくて。目を見開いて、爆弾発言をぶちかましてくれた恋人の横顔を凝視してしまった。
……本当に、突然すぎるし、何を言い出すんだこの人は。
このときの俺の心境を一言で表すのならば、


――何なのこのひとっ!?


……だった。

いつもは好きだとか愛してるとか貴方しかいらないと告げるたびに、湯気が出そうなほどに顔を赤くして照れまくって。掠めるだけのキスすら恥ずかしがって、普段は腕を組むのだって躊躇して周囲に知られないようにとかしているくせに。
堂々と恋人宣言とかどういうこと、っていうかどうして前振りがないかな……いや先に言われても実感がないって言うか、普段とのギャップがありすぎるっていうか、とりあえず口から飛び出そうな程に高鳴った心臓をどうしてくれるのかと。
一種異様に張り詰めた静寂を打ち破ったのは、

「やっとけっこんするのー?」

という、緊張感のかけらもない、のんびりとした可愛らしい声だった。こくりと首をかしげて、栗色の髪の女の子――加奈は、茹でたてのトウモロコシに手を伸ばしながらこっちを見つめてる。

「佳主馬兄、意外と踏ん切りおそーい」

呆れたように続けたのは、今年高校受験にかかりっきりのはずの真緒。雑多な情報が耳に届いて、この手の話題に敏感にお年頃なはずなのに、嫌悪感のカケラもないというのはさすが陣内家の女性としかいいようがない。
いや確かに自分はもう大学にも進学したし学業の傍らできっちり事業も両立してて、十八歳になれば日本の法律上では婚姻を許されるわけだけれど、普通あるでしょ、それ以前の世間体とか一般常識とかいう避けられない現実ってのがさ。
……まぁ、そんなの問題にすらならないように、周知の事実に仕立て上げたのは自分なわけだけれど。できるものなら自分だって、この人は俺のものなのだと、誰に対しても明確に位置づけてしまいたいよ。
二人の声を皮切りに、一気に緊張の糸が解けたらしい。

「っていうかさぁ~、いまさら驚きもできないわよねぇ」
「あははは、言えてます。驚かせるつもりならもっと早く言って欲しいところですよね……あ、日本酒冷えてますよ」
「同感。まぁ、そのいまさら加減が健二君らしいといえばらしいけどね……枝豆のカラいれ、どこ?」
「大体なんでいまになってそんなこというワケぇ? あ、デキちゃったとか」
「……んなワケないでしょ、このエロ親父。夏希の時とは違うんだから」
「そういや夏希は? まだあっちにいるのか?」
「向こうの大学の課題が死ぬほどあるって。『片手間でなんかできないから休みなんてない~!』だってさ」
「あらら、ご愁傷様。まぁ、アイツがいるからいーんじゃないの」
「みんなビール足りてる~?」
「よし、祝杯だ~っ!」
「じーちゃんて、そればっかり」
「なんだとぉ、祝い事は全力でいどむってのは代々だなぁ……」
「でも健二くんがねぇ……佳主馬が言うなら分かるけど」

うん、俺もそう思う。

更に言えば、何事もなかったかのように乾杯の準備に入るこの家の人間は、絶対どこかぶっとんでる。きっと『あらわし』がこの家に落っこちてきたあの夏に、ネジを数本ふっとばされたに違いない……まぁ、そういう自分は理性のタガっていうのを外されたんだ。人畜無害を装った、有害指定過ぎる目の前の愛しいイキモノに。

「どうしちゃったの健二さん。……ほんといまさら過ぎだし」

とんでもないことを言い放ったのは自分のクセに、緊張でがちがちに強張っている細い肩にとんと軽く触れる。びくり、と震えた手を思わずつかむと、にじみ出た汗でひんやり冷たい。そっと顔を覗き込んでみれば……目元が少し赤らんでる。
あ、泣きそう。

「そうそう、とっくの昔にさ、ばーちゃんに認められてたんだろ~?」

不満そうに吐き出した翔太兄の言葉に、だよねぇという声が重なる。みんな、彼の唐突な告白に驚いていたというよりは……あきれ返っていたのだ。

「健二くんってばまだ他人のつもりでいたわけ? つれないなぁ」

あはは…と軽快に笑いとばしたのは自分の母親で……さすがに豪胆もここまでくるとすごいなと他人事のようにため息をついてしまう。
常識では計り切れないのがウチの家系の特徴ってのを、分かっているはずなのに毎回思い知らされるのも普通じゃない。とっくの昔に彼はみんなの家族になっているし、いつでも来ていいんだよ、帰ってくる場所はあるんだよと、自然な愛情が注がれていることに気がつかないほど、彼は人の心に疎い人間ではない。

「……あの、だから、みなさんが僕を受け入れてくださっているっていうのは、すごくよく分かるって言うか、すごく嬉しいことで。だからこそ状況に甘えるんじゃなくって……」

切れ切れにつながる声。
ぬくもりを求めるように重なったてのひらに、すこし力がこめられた。

「すごく、大事なことだから。大切なひとたちだから……認めてもらいたいとおもったので……あの夏は栄おばあちゃんにだったけど、今度は万理子おばさんに、みなさんに、ちゃんと言いたかったんです」

大丈夫、ずっと、いるから――と。
言葉じゃなくてもちゃんと伝わるように……ぎゅっと手を握りかえす。


――よろしくお願いします。


深々と頭を下げた彼の上に、

「よろしく~」
「どうもよろしく」
「よろしくおねがいしまーす」

口々に気兼ねない声がかけられる。
恐る恐る顔を上げた健二さんに、「早く自分の席に戻りなって」と笑ったのは誰だったのか。

「なみも、けんじにぃといっしょにいるの~!」

仲間はずれはいやとばかりに、佳南美が健二さんの膝の上によじのぼってきて。

「なんだもう子どもがいるんじゃないの」

万作さんの相変わらずの軽口で「えぇ!?」と慌てふためく彼の姿に、どっと笑いが沸きあがって。
万理子おばさんがぽんと手を打って。

「さ、みんな。ご飯にしましょ」

高らかに告げられた声とともに、カチン…と、グラスの音がいくつも重なった。




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