FC2ブログ

[SS-RO] プリプリ2

一つ前のものと対になるお話です。
先に ↓ をごらんくださいまし。
http://lieting.blog2.fc2.com/blog-entry-35.html


たまにはぼくだって雰囲気だけのもの書いてみたくなるのです。
たまーに……頻度すくなー。


■いちばん近い闇の果て




――ひらり。
――はらり。

薄紅色のひとひらが、視界の海にたゆたうように。
ゆるい弧をえがいて、薄闇の空に埋もれてゆく。


『なあ……どこ見てるんだ?』


声が、する。
己が誰かもわからなくなるような。
しんと堕ちる桜闇に溶けゆく曖昧な自分の輪郭を、唯一繋ぎ止める楔。
ただひとつ、自分が自分であるための縁とするもの。

『なぁ……寒くないか?』

ふっと空気が動く感覚。
自分の五感の全てをただ一点に注いで。
必死に研ぎ澄ませた意識の外で、自分をずっと守ってくれていた手を――無数の傷がついた肉刺だらけのその手を、ためらいがちにすっと伸ばして。

『なぁ……ミイラ取りがミイラなんてさ。笑えない冗談だろ……?』

乾いた声とともに、触れる前に、ぱたりと落ちた。


わかっている――自分のしたことがどんなに無為なことか。
しっている――この世の摂理に抗う行為がどんなに愚かなことか。



『なぁ……』


なぁ。
なぁ。
……なあ。



  声が、遠く、なってゆく。



――まだだ、まだ早いっ!


微かに動いた指先に力をこめて。
ぎりりとかみ締めすぎた口の端から、つと朱色の筋が落ちるのも構わずに。
私は、自分の中の『力』を必死でかき集める。

自分にもっと能力があったのなら。
黄昏時の……「現」と「幻」が交わるこの瞬間だけにしがみつくこともなかっただろう。

刻む時の音は残酷なほどに速度を増し。
忍び寄る夜気の息吹が、ひたりと息づく闇の果てを、嫌というほど感じさせてくれる。


「――くっ……」


こめかみにキリで刺したかのような激痛が走り、急速に現実へと意識が呼び戻される感覚。
固くまぶたを閉ざしたのは、最早幾度目かも分からないその痛みに耐えられなかったわけではなく。

……目の前の現実を、認めたくなかったから。



完全に闇色に染め上げられた空の下。
私の目の前に在るのは……彼で、在った者。
彼では、無くなったモノ。

自分が誰かも分からない……虚ろな瞳の闇の住人。


死者の怨嗟の声を聞く力――貴方の声さえ聞けるのならばそれでいい。
死霊の凝りを浄化する力――貴方の姿を留めておけるのならばそれでいい。

迷える魂を救い導く指標となる力――私ひとり置いて逝くなど、認められるはずもない……!



「……わたしは、あなたとともにいきたかった………っ」




手を伸ばせば触れられる距離にあるというのに。
誰よりも一緒に在りたかった相手を、闇の楔に捕らえたのは自分。



傷む、心を。

痛む、心に。



何より欲する貴方の全ては、近くて遠い虚無の底。



comment

管理者にだけ表示を許可する

10 | 2019/11 | 12
Su Mo Tu We Th Fr Sa
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
New
Category
Archive
Link