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[SS-SW] インプリンティング

夏希×侘助でちょっと未来なお話。
…はい、表記は間違いではございません。
だってうちの夏希サマは総攻めだから。
ただ、攻めは必ず可哀想になるという不思議なオプション付。

あーうん。
だからうちんとこの佳主馬は年を経るにつれて可哀想になっていくんだな。
(そんなルールあるほうがおかしいよ)

■インプリンティング


「侘助おじさんって、大きなこどもだって、ほんと?」
「ぶっ――っ!!」

藪から棒のセリフに、口の端で燻らせていた煙草がぽろりと落ちそうになり。ふき出した拍子に、煙が喉に逆流してげほごほと思いっきり咳き込んでしまった。

「あっ! ご、ごめんなさい、おじさんだいじょうぶっ!? 驚かせちゃったの……かな?」

もともとくりっとした瞳が印象的なセミロングの女性――夏希は、さらに目を大きく見開いて、慌てて手を伸ばして俺の背中を擦った。
いやな、今の状態は間違いなくお前さんのセリフのせいなんだがな。

「……誰がんなこといいやがった?」

いいからと伸ばされた手を軽く振り払うと、ほんとに? …と少しばかり不安そうな瞳が俺をうかがうのを感じる。

――なんでそうかな、お前は。

献身的とも甲斐甲斐しいともいえる、夏希の自分へのあけすけな感情。昔からそうだった。
チビの短い足でいっつも俺のあとをくっついてきて、なりふりかまわずまとわりついて振り回してくれて、お蔭様で日の明るいうちは『静寂』という心を湿らせる時間から目を逸らしていられた。
純粋に寄せられる好意が、居場所を量りかねている自分の身の上には煩わしすぎて。鬱陶しいと声に出していっても、邪魔だとはねのけても(そのときはさすがにしょんぼりとしていたが)、次の日になれば一向に臆することなく「わびすけおじさん、あそぼ!」……と、はちきれんばかりの笑顔で駆け寄ってくる。
お人よしといえばきこえがいいが、ようは正直で融通がきかない頑固者。オトナの事情なんてものを何も知らないガキの時分ならともかく、いい加減、俺という男がどんなにいい加減でろくでもないイキモノなのかと分かっているはずなのに……なのに、彼女はあの頃と変わらない無邪気な笑顔を俺に向ける。

「えっとー、理一さん」
「何だと? ………あんの野郎、人のこといえたギリか……っ」
「と~、万理子おばさんと太助さんと直美さんと聖美さんと典子さんと頼彦さんと万作おじさんと~」
「……………」

首をかしげながら真剣に指折り数える彼女の姿に、無言で不愉快だと答える。
暴言とも言える的を射た内容に(大人気ないという自覚くらいはするだろ普通)、おいおい、親戚連中こぞってかよ……とげんなりする。

「……容赦ねぇなぁ」と唇の端をにっと上げて吐いた俺の言葉に、夏希が勢いよくがぱっと顔を上げた。

「あ、あと。栄大おばあちゃん!」
「ああそうかよ……――何だって?」

適当に流すつもりが、聞き捨てならない単語に反射的に彼女の方を見つめてしまった。
心まで射抜くような、真っ直ぐな目。深く輝く二つの瞳が、俺の視線を逸らすことなく、真正面から見つめ返してくる。

「よろしくって、言われたもの。仲良くしてね……って」

かみ締めるように、言い聞かせるように。
大切な思い出を紐解くように、ゆっくりと言葉をつむぐ彼女は、自分の一番大切なあの人の面影を宿した顔で、ゆるやかに微笑んでいる。

「お前からみたら大人かもしれないけれど、さみしいと口にできないこどもだから……正確には違ったかもだけど、そんなことを言われたの」

――私、忘れてないよ……と。

囁くように声を落とす彼女から、とっさに顔ごと目を逸らす。

知ってはいた。
感じてはいた。

根っから単純で直情的な彼女は、もともとやろうと思っても隠し事など出来ないタイプだ。
根が素直すぎる分、最初のその刷り込みが 焼きつきすぎてしまったらしい。
言われたからとかお願いされたからではないと。自分がそうしたいから一緒にいるのだと。幾度となく声や態度で必死に訴えかけてきた彼女の瞳を避けていた。
ひよこがはじめてみたものを親だと思い込むように。
この子どもは、大好きで尊敬する曾祖母の『お願い事』だったから、一生懸命約束を果たそうとしているうちに、夢中になりすぎて。一緒にいる理由すらを忘れて、親しいという感覚のみが残って慣例のようにくっついてきた……と。
それだけだと思っていた――思い込もうとしていた。
だから、こんな風に、はっきりと「頼まれたのだ」と自ら口に出すのを驚きの思いで聞いていた。それは彼女が、彼女自身の行動を否定するのにも等しい言葉だったから。

――良いことじゃないか、と損得勘定抜きで思う。

ようやく彼女は過去の幻想から解放されたのだ。自分だって憧れのおじさんを演じる必要がなくなって(いままでだってやってきちゃいないが)、子守から開放されて清々する……と思ってること自体が、少しばかり寂しいとか感じてる証拠かと気がついて苦笑する。
おいおい、ざまぁねぇなぁ?

「やっと夏希も親離れ……じゃねぇな、おじ離れが出来たのかぁ? あの数字馬鹿の坊やとちっとは色っぽい話になったってことだ……」
「侘助おじさん。聞いて」

茶化した俺の言葉を、夏希の悲鳴のようなするどい声がさえぎる。はっと視線を上げると、白く固い顔をした彼女がきゅっと己の両手を硬く握り締めていた。
何事だ? …と目をむく俺に――瞬間、彼女はふわりと笑って俺に微笑みかける。

「あのね、違うの。健二くんはね、関係ないの」

と、そこで言葉を切り、んん? ……と唸って彼女は小さく首をかしげた。

「あー、うん。正確には違う……よね。あっちの場合は相手が逆だし……えっと、大人みたいなこども? でも結構お子様だし生意気だし、真剣なのは認めるし純粋な分手ごわいし絶対手加減しないとか言ってる割にはデートっぽい機会お膳立てしてくれたりとか、年上に譲歩してくれてるのかなと思わなくもないけど。やっぱりそれってなんか余裕めいてて可愛くないから、ついいじめたくなっちゃうんだけど。それも愛情って言ったらすごい嫌な顔するし……」
「――夏希?」
「まぁでも、健二くんに教わったっていうのは変わんないか」
「だから何を――」
「えっと……私ね、愛とか恋って与えられるものだと思ってた。困った時とか、ちょっと寂しいなって思ったときとか、私が大好きな人たちは、いつだって手を差し伸べてくれて、どんな時だってそばにいてくれたから」
だから、勘違いしていた……と小さかった彼女はばつが悪そうにふふっと笑う。
「愛と恋って別なんだと思ってた。どきどきしたりとか、はらはらしたりとかするのが恋で、一緒だと落ち着いちゃうのが愛。だから、無償に与えるのが愛なら奪いつくしたいのが恋? ――違うよね。ううん、違うんだって気がついた」

気がつかされたの方がもっと正しいかな……と続ける彼女から目がそらせなくなったのは何故なのか。
気迫のある表情でも、甲高い声でもない。なのに、彼女の言葉が、体を縛り付ける。駄目だ、耳を貸すな。臆病者の本能が告げる、警告音が鳴り響く。
逃げろ、今が最後のチャンスだ――と。

「家族みたいに大切で愛しくて。でも、穏やかでも強くて激しい『恋心』って……ちゃんと、あるんだなって」

空いた口がふさがらないとはこのことか。
相当な間抜け面で口を開きかけたところで、「あ、おじさん煙草!」といわれて畳に落ちる寸前で慌てて灰皿に押しつける。いやちょっとまて、いまコイツなんつった……?
なつき……と、声にならない声を落とす。非の打ち所のない極上の正座で、俺の真正面に座り込み。悠然と顔を上げてぴっと姿勢を正した彼女は、艶やかな黒髪をさらりとなびかせ、きっと俺を見据えて口を開いた。


「侘さんって、呼んでいいですか」


かくん、と。あごが落ちる音が聞こえた気がする――無論自分のだ。

「……あ? 何を――……」

言い出すのか、と言いかける俺を、完璧な笑顔が迎え撃つ。言葉だけを聴いていればクエスチョンマークがつきそうだが、言葉尻は決して疑問系ではなく確定。お相手様は、身を乗り出して前傾姿勢ときたもんだ。
……陣内家の一族は、こぞって負け戦でも旗挙げるってか? つぅか、負ける気微塵もねぇな、こりゃ。
勝ち逃げが信条の俺の行動などお見通しのはずだ。
何度何度逃げ出しても、当たり前のように笑って「お帰りなさい」と受け入れる。分かりきるほど、もうコイツはずっと俺の傍を離れてはくれない。湧き上がるこもごもの思いが、喉の奥で声になる前に消える。
曲がったことが大嫌いで約束は絶対に守り通して……ほんと、あの豪傑ばばあにそっくりすぎんじゃねぇか。
……ったく、逃げられないとか冗談じゃない。

「――俺に勝ったらな」

ニヤリと笑って言い返せば、「えー」とか「ずるいー」と駄々をこねはじめるかと思いきや。

「その勝負、乗ったっ!」

おもむろに立ち上がると、ぐっと右手の拳を天に突き上げて戦闘態勢発動。そのまま拳を下げると、ぴっと人差し指を俺の鼻先に突き出し、左手を腰にあてて大きくもない胸を張る。

「おじさん、OZで待ってるからね!」

意気揚々と弾んだ声をあげる彼女の様子に、ある事実に気がつきはっとする。

「ちょっと待て……夏希っ! お前、吉祥使う気だろ?」
「ふっふーん。勝負は勝負よ?」

にっこり。

と擬音が聞こえてくるほどの満面の笑みで、高らかに笑い声を上げ。悠然と立ち去る彼女の姿に向かって、ふっと小さく息をもらす。


……馬鹿、つめが甘いんだよ。


吉祥のレアアイテムは、アイテムとしては存在し続けても、効力はアカウント委託された時じゃないと発動しない……なんてことを、まったく持ってOZを有効活用することがない夏希が、知っているはずもない。
それでも。
まぁ、でも一回くらい負けてやってもいいか――実力ならな、と。
思ったのは……。


――あ、でも。奪うのが恋じゃないとは思ったけど、あきらめが悪いのが恋っていうのは合ってるのかな?




遠ざかる彼女の呟きが、心地よく聞こえたせいではないはずだ。




end


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