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[SS-SW] さぷらいず。

佳主馬→健二な妹ちゃん話。現在。

■さぷらいず。


「――うん、そ。ついさっき」

しんと心地よい静けさが満ちる、夜更けというよりちょっと前の時間。
携帯の電話口へ落とした自分の声が、いつもよりやわらかく響いた。

「え? 大丈夫だって、ちゃんと無事。……産まれたよ」

僕の告げた言葉に、電話の向こう側にいる相手は、一瞬声を詰まらせて。
ため息のようにひそやかに、『すごいね……』とささやいた。

『すごいねぇ、無事に産まれてすごいねぇ。佳主馬君もお兄ちゃんなんだ。すごいねぇ……』

何度も『すごい』を繰り返す相手に、「落ち着きなよ」なんて、いつかを彷彿とさせる言葉を言い聞かせながら。彼の声から伝わってくる歓喜の感情に、つい笑みを誘われてしまう。

「なんで健二さんが、そんなに興奮してんの? ウチのことなのに」
『え、だってすごいことじゃない。ずっと待ってたっていうか、とうとうっていうか。新しい命が産まれるのって、ほんとに奇跡のようなことだよねって思ったら、なんか胸がつまっちゃって――きっと、ずっと、見守っててくれたんだよね」

誰が、とは口にしなくても、あの夏を一緒に過ごした『みんな』ならば分かる。
旅立ってゆく命があれば、産まれてくる新しい命がある。
当たり前のことなのだけれど、こんなにも身近で命そのものの存在を感じることはないだろう……と。

『なんだろ。これが愛しいってこと、なの……かな?』

ほんのちょっと照れたように続けられた相手の声が、あまりに幸せそうで。
産まれたばかりの妹が一瞬だけ羨ましいとか思ったとか――そんなことは絶対口にしないけれど。

『おばぁちゃんもだけど、無事に産まれたのは、あの時佳主馬くんが全力で守ってくれたからだよねぇ』
「……僕じゃない。僕は、何もできなかった。健二さんが、僕たちを守ってくれたからだよ」

あの時の絶望感を、自分は一生忘れない。忘れてはならない。
何もできなかった自分。
守ると、守りたいと願いながらも、僕はただ、負けてしまったことへの悔しさに震えていることしかできなかった。
がむしゃらな思いだけでは、何もできやしないのだと思い知らされて。
打ちのめされた自分の前に、決して諦めない強さを秘めた『彼』がいたのだ。

その人は笑う。
ふわりとやさしく微笑んで、『ありがとう』という言葉を否定する。

『違うよ、佳主馬くん。確かにパスコードを解いたのは僕だけど、それができたのは――みんながいたから、だよ。誰かひとりが欠けていても駄目だった。僕は何かをしなくちゃいけないと思っていても、どうすればいいのか分からなかった。自分に何ができるんだろってずっと思ってた。守りたいと、守るために立ち上がったのは、君だったんだよ』

心からの言葉なのだろう。
ゆっくりと紡がれた相手の声は、いつまでも聞いていたいと思わせるくらい、心地よく耳に響く。
確かに、あの時は誰が欠けていても駄目だった。
一緒にいて、一緒にご飯を食べて、家族みんなが力を合わせたからこそ、世界の危機なんていう状況だって乗り越えられたとは思う。
けれど――その一番の『鍵』になったのは貴方なのだ――と言っても、決して受け入れてはくれないのだろう。
だから僕は、ため息混じりにそっと息を吐いた。

「……うん、そうだね」
『だよね! よかった、無事に産まれてほんとによかった。うん、佳主馬くんおめでとう、お疲れさま』

本当に、自分のことのように喜んでいる彼の表情が目に浮かぶようで。
小さく笑いながら「ありがと。でもそれは母さんに言いなよ」と言ったら、

『……あ、そうだよね!』

今気がつきましたと言わんばかりに慌てた声音に、ぷっと吹き出してしまった。

「今度会いにきてよ。今はまだ無理だけど、妹に健二さんを紹介したい。父さんも母さんも、健二さんならいつでも歓迎だから」
『うん、僕も会いたい。佳主馬くんの妹ならすごく可愛いよね。早く顔がみたいなぁ』

とろけそうなほどふんにゃりした声に、こっちの腰が砕けそうになる。
電話越しだってのになんて破壊力なんだか。これを無意識でやってるんだから、天然タラシ属性ってのはほんとに恐ろしい。
けれど、その後に続けられた爆弾発言に、そんな些細な問題はふっとんだ。

『それにしても、妹ちゃんは僕と一日違いかぁ。あはは、なんだか楽しいなぁ』



―――――はぃ?


「ちょっ!!! 健二さんいまなんてっ!!!?」
『わ、駄目だよ佳主馬くん。病院でそんな大きな声だしちゃいけないよ」
「こんな夜まで病室に居るわけないでしょ! とっくにウチに帰ってきてるよ。問題ないっ!」
『あ、そっか。そうだよね、うん』

あ、でもやっぱり夜なんだから、大きな声は近所迷惑になるよ……とかなんとか。
常識的な様でいて、どっかズレた反応を返してくれるんだ、この人は……じゃなく。
そうではなく、そこではなく。
これが冷静でいられるか。

「いつっ! いつだったの!! 一日違いって、明日!?」

そうであって欲しいという、願いを込めた悲鳴をあげると、

『え、僕の? 昨日だけど』

アッサリと絶ち切られた。
知らされていなかっただけでもショックだというのに、手遅れとか!?

「それ、佐久間さんは知ってたわけっ!」
『は? え? 何で佐久間?? ……えっと、いや、知らないはずだけど。俺も佐久間の誕生日なんて知らないし。今更そんなこと、あらためて言ったりとかしないよ」

あ、いま俺って言った! ……なんてことを発見した小さな喜びに浸っている場合ではない。
無二の親友たる位置にいる佐久間さんですら知らないのであれば、まだ、まぁ救いはあるのか。この分だと、友達以上おつきあい未満である、夏希にすら伝えてないに違いない。
そういえばクラス内でも、やたらと血液型とか星座とか誕生日という話題で盛り上がるのは、女子の方だった。大して自分には価値がない(としつこく思いこんでいる)彼が、重要なイベントなのだと気がつかなくても無理はない。
自分だって、家族がお祭りや行事に盛り上がる家系でなければ、さほど誕生日などに興味を持たなかっただろう。必要以上な他人との係わり合いなんて、面倒なだけ。

――けれど、恋しい相手となれば話は別だ。

「健二さん、覚悟しといたほうがいいよ」
『へ?』
「夏希ねぇ。相当怒るよ」
『え?』
「もちろん、僕らもね」
『えぇえええ~っ!?』

なんで!? と本気で事態を理解していないセリフに、がっくりと肩を落とす。
ああほんと、この人は自覚が足りなすぎる。
あの強烈でまぶし過ぎる夏の日から。
とっくの昔に貴方は『陣内家の一員なのだ』と、何度何回言い聞かせれば気が済むのか。
世界にとっては命の恩人。一族にとっては絶対的ヒーロー。僕(と夏希姉)にとっては、難攻不落な絶賛アタックバトル中の想い人。
賞賛と感謝と恋情をどれほど注いでも足りないくらいの相手だというのに、祝う権利すら与えられなかっただなんて、冗談じゃない。
ひどい、とか。教えてもくれなかっただなんて、とか。
ぼそりと低い声で文句を呟く僕の態度で不安になったのか、慌てた様子で相手が言葉を重ねてきた。

『ご、ごめんね。きっとみんな忙しいだろうと思ってて、あえて言わなくてもとか。ほら、そんなあらためてお祝いとかする年でもないし。あ、でも……昨日もさ、特別何かするわけじゃなかったんだけど、僕の誕生日だからって母さんが珍しく早めに帰ってきてね。ご飯作ってくれるの待ってる間、僕があんまりそわそわしてるもんだから、母さんが不思議がっちゃって。佳主馬くんの妹が産まれそうなんだって言ったら、まるで自分の子どもを待ってる父親の顔ね……って笑われちゃったんだよ」

待ち遠しかったんだから仕方ないよね、とか。
今度からは、妹ちゃんのついでに僕のことまで思い出してもらえちゃうね……なんて。
少し照れくさそうに続けられるやわらかい声が、僕の胸の奥をじんわりと熱くする。

それって、貴方の中で、ちゃんと僕らが、大切な存在としているってこと――?

「仕方がない。今回だけは、僕のウチが大変だったから遠慮したんだってことで、親戚連中はフォローしといてあげる」
『……お世話かけます』

携帯電話を片手に、背もたれ代わりにしていたベットへぼふっと倒れこむと。
情けないほど控えめすぎる声が届いて、僕はまたしても声を出して笑ってしまった。

『えっと、じゃあ……来年からは二人分祝ってもらえる……ってことなの、かな?』

当然だよ。

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