刀剣乱舞:ある日のサニーさん

たまさかに訪れた演練場は、ちょうど三戦目の手合わせがはじまろうかという頃合いであった。
存在感が希薄であることに自信があったのだが、気配に聡い子らは即座に気がついたらしい。
何故こちらにと声にならぬ言葉を視線でよこす彼らに、すっと目を眇め、口の端に淡い笑みを湛えて軽く頷き返す。
場を乱すのは本意ではない、と。
正しく意は伝わったとみえて、彼らは大人しく視線を場へと戻した。多少不満気な表情を隠そうとしないあたりが、またなんとも好ましいものだと思ってしまうのは立場上の欲目なのか。
(騒々しいようにみえて、こやつらもめっぽう真面目な男どもだからな)
こみ上げる笑みは、喉の奥でくつりと飲みこむ。
模擬の手合いを様子見るのは、幾度目になろうか。足繁くというほどではないが、指折り数えられるほどには顔を出していると思う。少しまとまった時間がとれ{{半角}} ればふらりと足を運ぶようにしているのは、別にちゃんと鍛練に励んでいるかなどと訝しんでいるからではない。
まぁ、怠惰な空気を醸し出している子が幾人かいるが、彼らが真に時代を生き抜き、生死の狭間を駆け抜けたことくらい分かっている。
気のないそぶりをしていても、己が証となる時の流れが歪められるかもしれぬと識れば、その眼に灯る光が変わった。
鋭い、凍てつくような、凛と冴える刃の煌めき。命の灯火ともいえるその刃身の光は、このうえなく儚く強く美しいものとして己の目には眩しく映ったのだ。
(できれば、この目で、体で、確かめたかった)
時を止め、時を辿るしかできない自分には、史実を「視る」ことはできても、我が身に起きたこととして感じることはできない。
だが、さすがに此処において異分子にしか過ぎない自分には過ぎた願いだろう。
戦場(いくさば)に投じることは叶わぬ身なれば、実際に戦う彼らの姿を少しでもこの目に刻んでおければと考えたのである。

「ああっ! なんと主様がご覧になっておられたのに、鳴狐の活躍をとくとお見せできなかったとは何たる不覚!」
「……ん」
「強くなったつもりでいたのに……あなたの前で、誰も殺せなかった……」
「てかさー、小夜ちゃん殺気出しすぎなんだよねー。練習なんだからもっと気楽にいかないとさー、汚れちゃうし、つーかーれーる〜っ」
「おいおい、気を抜くってのないだろう。あんたも大将の前でカッコつけたいのはわかるが、戦ってのはなんであれ滾るつーか、楽しいもんだろうがよ」
「あー……みな、すまん」
しまった、長居しすぎた、と気がついた時にはもう遅し。模擬を終え、いささか芳しくない戦歴とともに帰還した賑やかな面子に、しっかりと物見をしている自{{半角}} 分を見つけられてしまった。
初っ端の一太刀で、自陣の分が悪いということはわかっていた。演習とはいえど、あまり自分に見られていたくはないだろうと思い、手合いが終わる前に離れよ{{半角}} うと思ってはいた。
(これでは、獅子さんに口止めをした意味がないな)
彼らには知れぬよう、そっと苦笑を漏らす。
つい――見入ってしまったのだ。戦の場においてもっとも強く煌めく、彼らの刹那の輝きに。
「別に身内贔屓での話しではないがな。君たちの戦いぶりは悪くなかったよ」
柔らかに笑んで。けれど、声だけは本気の音で告げれば、きまり悪げにそっぽを向いていた子の鋭い視線が、幾分か和らいだ。
「しかし、私たちは勝てませんでした。負けたくなどなかった……!」
悔しさを滲ませる青髪の青年の、実直な声音が心地よく耳を打つ。
「いや、君たちは強いよ――そう、私の采配が悪かったんだ。いけないね、もっと君たちの強さを引き出さなければいけないのに、どこか躊躇ってしまうのは私の弱さだな」
(そして、ないものねだりの妄執だ)
脳裏に浮かんだ言葉は、胸の内に深く落として溶かしこむ。
「足りないところを知るというのは、とても良いことだと思うよ。今日は最後まで此方にいるから、もっと君たちのことを教えてもらって良いかな?」
「えー、主さんがみてると緊張しちゃうなぁ!」
「すまぬ、邪魔だてするつもりはなかった。私のことは気にするな、路傍の石とでも思ってくれ」
「それはまた、玉鋼にもならない薹が立った石だね」
「……蛍さんは、窯匣(あついおふろ)がお好みかな?」
「ひえぇーっ」



常にお気楽で奔放自在な彼の、どうにもやる気のない悲鳴が次の手合いの皮切りとなった。



さあ、魅せておくれ。
命の香りが芳しく匂い立つ生の境界線で、君たちが最も輝くその瞬間を。

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