義勇軍(仮)の長くて短い一日 『昼』

スマホアプリのチェンクロでのログホラコラボで、ログホラメンバーはその後無事にエルダーテイルに戻れたんじゃないかな妄想物語の二話目です。

彼だってたまには裏のない行動をすることだってあると思うんだよたぶん。

お昼時の厨房は、甘い香りに満ちていた。
セララの目の前でボウルを片手に卵を泡立てている猫人族の盗剣士は、とても楽しげに鼻歌を響かせている。

「お菓子、ですか?」

バターと砂糖、それと小麦粉をにゃん太の言う通りに選り分けながら、森呪遣いの少女、セララはこくりと首を傾げる。
材料や、立ちのぼる甘くて香ばしい香りからは、それ以外の結果は考えられそうもない。
(でも、すこし不思議な香りもしてますし。ぴりりと身が引き締まるような……これは、唐辛子……なんて、あるわけないですね)

「セララちはそう思うですかにゃ?」

面白そうに問い返すにゃん太の、瞳の中の光彩までもがすっと細くなる。
こんな時は本当に猫みたいになるんだと気がついたセララは、急いで頭の中のにゃん太さん専用メモリアルブックにメモをする。
そこには『目を細めるにゃん太さんもかっこいい!!』と、感嘆符付きでしっかりと書き記されている。
本物の猫ならば可愛いとおもうだろうが、この人に限っては何をしても『かっこいい』となってしまうのが不思議なところである。
(やっぱり来てよかったー!)
自分的大発見ができたと、セララは天に駆け上がって一回転するくらい舞い上がってしまう。
(ゆっくりしてきていいって言ってくれたし、ちょっとなら大丈夫ですよね)
三日月同盟からのお使い……という理由をつけて、しごく純粋に大好きな彼の顔を見たかったセララは、優しいギルドマスターに心の中で「ごめんなさい」をしつつ、ちゃっかり記録の地平線のギルドハウスにお邪魔をしていた。
どうにも苦しい言い訳をしながらも、喜び勇んで厨房の主であるにゃん太のお手伝いをしているというわけだ。

「そう思います。でも……なんかちょっと、不思議な香りもします」
「ふふっ。これは大事な頼まれものなのですにゃ」
「たのまれもの、ですか?」

狐につままれたかのような顔でしきりに首を捻るセララは、少しだけ遠い目をしたにゃん太の表情に気がつく事はなかった。

 ——つまり、お土産ですかにゃ?
 ——まぁ、そういうことになるのかな。
 ——それはそれは……。

「にゃん太さんってそんなお願いごとも引き受けちゃうんですね。やっぱり優しいです。お料理のお願いなんて、どなたなんでしょうかねー」
「D.D.Dのクラスティちにゃ」
「へぇー、D.D.Dの…………っ!?」

セララは、頭の中で、何度も今耳にした単語を咀嚼しようと試みる。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう)
けれど、彼女の脳内はパンク寸前だ。
どうしても結びつかないのだ、あの大規模ギルドであるDDDのギルドマスターこと冷徹戦闘狂インテリ眼鏡と称されるクラスティが『お菓子作りをお願い』だなどと!

「先刻念話で依頼があったのにゃ。折角だからあちらで教えてもらったレシピで作ってみようかと思って作りはじめてみたのですが、これがなかなかに手強いですにゃあ」
「あ、あのっ」

にゃんですかな? と優しく聞き返されて、セララはうっと喉に声を詰まらせる。
(それは本当にクラスティさんなんですか、なんて言えないですーっ)
ぱくぱくと何度も口を開くも、結局浮かんだ疑問を声にすることは出来ず。
すこしでもにゃん太からの好感度を上げるべく、お手伝いへ没頭することに決めたのだった。





「ミロード、どうかなさいましたか?」

思い出し笑いなんて珍しい、と狼牙族の女性が抑揚のない声をかけてくる。

「おや、私は笑っていましたか」
「ええ。口の端がちょーーっと上がっているくらいですが、確かに」

表情を変えずに淡々告げる黒髪の女性は、常に冷静沈着で実際に起こったことしか口にしない。
とても頼りになるギルド運営補佐の言葉なのだから、実際に自分は笑っていたのだろう、とクラスティは納得する。
(つまり、あの御仁の呟きは本当だったという事か……)

 ——突然妙なお願いをして本当に申し訳ないとは思っているが、同じ旅をしてきた者同志ということで引き受けていただけると有り難い。
 ——我が輩はちっとも構わないですにゃ。

己が言いだしたことながら、そんな安易に請け負っていいものなのかと訝っている気配を察したかのように、念話の相手はさらりと言葉をつなげた。

 ——つまりクラスティちは、美味しい物を食べたみんなの喜ぶ顔がみたいというということですにゃ。

それはとても素敵な事ですにゃ……と、猫人族の紳士は楽しげに笑いながら念話を閉じた。


ほんの少し前まで、エルダーテイルで口にできる食料には味がなかった。
視覚ではこの上なく美味しそうだととらえているのに、口にすると何もかもかふやけたせんべいの様な味にしかならないのだ。
人間らしい生活をするためには、味付けというものも非情に重要だと思い知っていたクラスティは、自分が思うよりもやや味覚に対して過敏に反応するようになっていたのかもしれない。
エルダーテイルとは異なる世界の宿屋で、はじめて口にした料理がこの上なく美味しいと思い、心密かに感嘆した。
出来うる事なら、この味をギルドのメンバーにも賞味させたいものだと考え宿屋の主人に、料理人に会う事は出来ないかと交渉してみたのだ。
まさか、宿屋の厨房から顔を出したのが、見知った猫人族の男性であるとは、さすがのクラスティも予想だにしていなかったのだ。

「異世界でいちばん良いと思ったものが、実はもとの世界ものだったなんて、本当に世間は狭いですね」
「………はい?」

クラスティに付き添って並び立つ怜悧な美女の表情が、とても珍しい事に少しだけ怪訝そうに歪められていたのだが、ギルドの主はもちろん堂々と気がつかなかったことにしたのだった。



後日、D.D.Dの主要ギルドメンバーへ、日頃の感謝と称された可愛らしい包装の小袋がギルドマスター手ずから配布された。
だが、内部からそこはかとなく漂うミステリアスな香りにメンバーの誰もが恐れをなして、その中身を口にするのには相当な勇気と覚悟が必要だったという。
とあるメンバーは、憔悴し切った表情でこう述べた。
あれは、ギルマスによる幹部への『戦闘ギルドたる心構え』を問う試練だったに違いない——と。

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