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[SS-RO] まーくんとスナの物語 3

ラストでーす。
お付き合いいただいてありがとうございました~!

この人たちにとっちゃーこれからですがネ。


■reserve … 3





俺の目の前に佇む青年が、本当に自分の知っているあの少年だったのかと思ってしまったのは。
彼が見慣れぬ服装――弓職の転生職で、確かスナイパーといっただろうか――をしていたからというだけではない。

……いつの間に、俺の背を追い越してしまったんだろうな。

以前は頭ひとつ分下だったはずの身長差だったというのに。
今は……表情のない冷たい青灰色の瞳が、冷たく俺を見下ろしていた。

「……キア……」

それでも、どんなに時間が経っていようと、自分にはわかる……自分が相手を見間違えるはずもない。
己に言い聞かせるように相手の名を呟いて。
目の前の緑の髪のスナイパーが宿す表情の虚ろさに――俺は次に続けるべき言葉を見失ってしまう。


何を、言えばいいのだろう。
何が、言えると言うのだろう。


突然の出来事だった。

あの日、何年も連絡を取ることもなかった一族から久々の便りが届いたかと思えば、親父が血を吐いて倒れたという内容で。
取るものも取らず駆けつけてみれば、予想外に病状は深刻で1ヶ月も持たないだろうと医師に宣告されただとか。
心労が重なり、もとから病弱な母親までも倒れてしまっただとか。

そのまま生死をいったりきたりした親父は結局1年以上生き延びて、最後の最後に「一族の正当な継承者はお前だ」とか爆弾発言を言い捨て無責任に往生しちまいやがったとか。

折り悪く親父の兄である族長まで同じ病で亡くなり、一族直系の子どもがおらず傍系で家督争いの壮絶な骨肉バトルが勃発し。
どう考えても俺より正当な継承者であるけれど、幼すぎる甥っこを守りながら揺るぎのない足場を固めるまでに更に数年かかってしまったとか

……世間とあまりにも隔離された砂漠の民の特性ゆえに、冒険者としての自分を捨てざるを得なかったとか。 


――全ては言い訳にしかすぎない。



  いえなかった。
  なにも。
  いつ終わるとも分からない。
  帰って来られるかも分からない。
  約束などできやしないのに。
  『待っていてくれ』…と、口にすることなんて、できやしなかった。



いつも一緒にいた。
誰よりも近くにいて、何も言わなくても、誰よりもお互いのことを分かっていた。
だから……何より大切だった場所に、背を向けた。


……俺は、お前に甘えていたんだな……。


キアならば分かってくれるだろうと勝手に自己完結して。
何ひとつ告げぬまま、過ぎ去った3年という月日。
決して短くはない……少なくとも、目の目の少年が青年に成長してしまうくらいの時は確実に過ぎ去っている。
許されるなんて思ってはいなかったけれど。
全てを閉ざした冴えた瞳の彼の姿に、言葉以上の感情を突きつけられる。

――何もいらない。何も受け付けない。

いまさら自分が口に出来ることなど何もないのだ……と。
自分に向かって近づいてくる気配に、何を言われても黙って受け入れようと覚悟を決めて顔を上げた瞬間。





ガゴッ!!!






手加減ナシの本気の右ストレートが俺のアゴにクリーンヒットした。
ちかちかと瞬く星に、ぐらぐら揺れる視界。
攪拌よろしく揺れる脳みその奥で、ものすごい勢いで殴り飛ばされたのだとおぼろげながら認識する。


……あの……反論できたギリじゃないが……俺、一応一次職なんですが……。


「……弓を出していないだけ、まーだ手加減してますよねー」
「手刀の一撃一撃が急所をえぐってるけどな。さすがスナイパー、狙いが正確だ」
「まぁ、当然の報いですよね。リーがいなくなってからのキアの荒れっぷりったら、本当にすごかったんですから」
「八つ当たりもあそこまで行くといっそ見事だったよなぁ。トレインしまくりでDS&BBで一掃でしまくってはモンハウをつくりまた潰し(ry」
「ふれたら即爆発状態だったもんね。手伝おうかって言ってもてーんでだめ。勝手に蛍族になって、気がつけば転生してるし。よっぽど人の手を借りたくなかったみたいだよぉ、だーれかさん以外はねぇ~だ」


遠くで聞こえるナカマタチの温かい実況中継。
はははは………。
なんだかだんだん俺の行く末が見えてきた気がする……orz


「……ファルコンアサルト」
「うわぁぁぁぁぁあ!!? さっちゃんやめてーーーっ! 俺マジでハゲるからっ!」
「さすがDEF無視必中無属性攻撃。よし皐月(さつき)くん、クチバシでもっとリーの10円ハゲをえぐっちゃいなさい」

ここぞとばかりに空中を旋回していた鷹の皐月が、主人であるキアの一声とともに俺をめがけて降りてきた。
飼い主と同じく小柄だったはずの皐月まで大きくなって……などとのん気ににほろりとしている場合ではなく。
しっかり手入れされてギラリと光る猛禽類のその爪そのクチバシ、本気で痛いですからっ!

「リーは手出しできねぇぞ、やっちまえ!」
「当たり前だぼけーーっ!!」

無責任にここぞとばかりにはやし立てるローグの声に、反射的に叫び返す。
ニヤニヤ笑いながら見ているだけのヤツらなんぞ、真面目に相手をしていられない……というか。
いまこの状況で、俺が反撃する余裕なんぞあるわけがないだろうっ!!


「……頼む、キア……泣くなよ」


心底情けない声で、俺は緑の髪の青年に向かって口を開いた。
気がつくな、という方が困難なほどに。
すっかり大人の顔になったスナイパーの――キアのアイスブルーの瞳からは、透明な筋がいくつも頬を伝っていた。

……なんで、殴った方が泣いてるんだよ。


「あーあー、泣かせた~」
「キアさんって、こんなに感情を出す方だったんですね……」
「しょうがないのよぉ~、キアは特別製だもん。リーじゃないとスイッチはいんないの~」
「リー、ちゃんと責任とりなさいよっ」

好き勝手に騒ぐ周囲の声が、遠く聞こえる。
キアの、射抜くようなまっすぐな視線に、体が金縛りのように痺れて動かない。

……所詮、お前から逃げ切れるだなんて、出来るはずがなかったってのに。



「……何度も呼んだ」


声を殺した、低い音がぽつりと落ちる。


 俺も、呼んだ。



「何度も繰り返した」
「……ああ」


 俺も、幾度となく繰り返した。



「『存在しない人の名前』だと、ずっと……ずっと、くりかえされた……」
「…………」



冒険者登録を抹消してしまってからは、囁きの魔力を行使することはできない。
届くはずがないと分かり切っているのに。
それでも、名前を呼ぶことを止められなかった。


 ここにいるよ。
 俺は、ここにいる。




 ―――もういちど、おまえに、あいたい……。





「アヴィ」

俺を呼ぶ、彼の声。
俺の後をついてきて、俺と肩を並べて、俺の背を預けて。
俺を追い越してしまった……誰よりも大切な相方の声。

「……キア……」

ためらいがちに……けれど、確実にしっかりと青年に向かって手を差し出すと。
緑の髪のスナイパーは、身体ごと俺に向かって飛び込んできた。
肉刺だらけの彼の指先が俺の胸元に触れる硬い感触――懐にねじ込むように、ギルドエンブレムを渡されたのだと気がつく。

かちり、と。

頭の奥でギルドの共有階層と意識がつながるのを感じた。




──ギルドメンバーに告ぐ。このギルドは60秒後に解散する。新ギルドが欲しい奴は1時間以内に溜まり場に戻ってこい。



………。
………。
………。



「はぁぁぁーーーーっ!?」



Σちょ!!!!!!?
 なっ……叫んでいるのは俺だけーーーーっ!?


なんつー無茶苦茶を大まじめに言い張りますかこのスナはーーーーっ!?
無茶するにもほどがあるだろうっ!?
慌てて周囲を見回すも、凸凹面子はそろいも揃って口の端を上げて、ニヤリのポーズで見てるだけ。
って、ソコの初心者アコライトまで何故に感慨深く頷いてマスカっ!?

あまりの事態に、ぽかんと口をあけて間抜け面で硬直する俺の顔をじっと見つめて。
真剣な表情でスナイパーがゆるりと口を開く。


「この欄に入るのは、お前の名前以外に認めない」


ギルド名簿の一番上を指さして。
当たり前のように、まばゆい光を放つ金属――エンペリウムを差し出す。


えっと、それは……。
もしかして、ですが……。
ひとつ、確認させていただいてもよろしいでございましょうか。


「キア……俺は……お前の隣に戻ってもいいのか?」
「…………」


……えーと。
首を横に振られましたよ、と。


―― ダ メ な の か っ !?


心の奥底まで見透かされるような。
真っ直ぐな瞳でじっと見つめてくる視線を前に、俺は思わず頭を抱えてうめきだした。
少々頼りない脳みそを必死にフル回転させて、状況を理解しようとする。
目の前の青年の表情を見るに、許してくれないわけではない、らしい。
けれど、受け入れてもらえるには、何かが決定的に欠けているらしい。

「あ……えーと、すまなかった」

謝っていなかったことを思い出し、口にだしてみるが……。
相手は黙って首をふる。

「……ごめんなさい?」

言葉が違ってかと思ったが。
ふるふる。
またしてもチガウの意思表示。

………えーとんーと、なんだぁ?
もうしませんとか……まるで奥さんに浮気を目撃された亭主の言い訳みたいだが、状況的に間違っていないような気も……いやいやそうではなく、ソコではなく。
うんうんと唸る俺の姿をみて、ほんわりと微笑みながら見守っているだけだったマディーリカが、小さくふきだした。

「……簡単なことですのに。リー、いつも貴方が言ってらっしゃったでしょう……?」
「……? ……あっ」


思わず口元を手で覆って、もごもごと声にならない声を漏らす。
ああそっか。
もっともっと簡単で単純で――とても、大切なことだった。

顔をあげて、すうと息を吸い込んで。
しっかりと彼の、澄み切った青灰色の瞳を見つめて、口を開く。



「……ただいま」




震える俺の声に、緑の髪の青年は、ふわり……と微笑んだ。





「おかえり」











 くるしくて、くるしくて。
 どうすればこの引き裂かれるような胸の痛みから逃れられるのかわからなくて。
 幾度も呪文のようにくりかえし、名前を呼んだ。

   キア

 届かないとわかっていた。
 無駄なのだとしっていた。
 けれど、それでも自分は虚空に向かって同じ言葉を叫び、あの場所へ戻りたいと渇望した。


   キア


 まっていてくれるはずがないと諦め。
 じぶんひとりが時の流れに取り残されたつもりになっていた。



  大丈夫――ここにいるよ。









『ギルド Eternity Reserved が作成されました。』











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