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[SS-RO] まーくんとスナの物語 1

うそっこまーくんのハートフルギルド物語です。
……嘘はいってないですが明らかな語彙不足があります。


くるしくて、くるしくて。
どうすればこの引き裂かれるような胸の痛みから逃れられるのかわからなくて。
幾度も呪文のようにくりかえし、名前を呼んだ。
届かないとわかっている。
無駄なのだとしっている。
けれど、それでも自分は虚空に向かって同じ言葉を叫ぶ。




  ――ここにいるよ。











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■reserve … 1





「うわ……人形ばっかり」

思わず零れた自分の言葉が、薄暗い下水道の中でこだましたけれど。
その声に反応するような自我の在るイキモノは、そこにはいなかった。
BOTと呼ばれる、固有意識のない肉人形が狩場で横行していたのは覚えている。
けれど、自分の記憶ではここまでひどくはなかったはずだ。
周囲をくるりと見渡すだけで、一瞬姿を現しては盗虫の群れをDSで敵をなぎ倒してゆく弓手の影が5、6体。
ドロップアイテムを拾うことなく、またテレポで消え去る様子に、思わずはぁ…とため息をついてしまう。

「……前は、もっといろんな人がいたはずなんだけどなぁ……」

地下下水道なんていうくらいだから、もともと決して陽気な場所とは言いがたいところだったけれど、あまりにも生気のなさに、さすがにうんざりしてきた。
ノービスから1次職に転職して、バッタあたりでちょっと経験値を稼いだら騎士団をたずねて盗虫退治……なんて、冒険者にとっては結構お決まりのコースだったのだ。
イチからやり直すつもりで臨んだ初心者訓練場が随分と親切設計になっていたことにも充分驚いたというのに、ここまですさんでいるのはちょっとどころではないカルチャーショックだ。

「まぁ、それだけ時間が経ってるってことだよな」

商人ギルドから配給された真新しい自分の服の裾をつまんで、苦笑混じりに呟く。
仕方がないこととはいえ、寂寥感ばかりがつのってしまう。
自分で消してしまった過去の思い出に、いつまでも未練たらしくしがみついている場合ではないというのに。

……俺って、本当はしつこい性格だったんだな。

全てを捨てて、新しいスタートを切って。
何にでもなれたはずなのに………潮風吹く港町で自分が選んだのは、結局以前と同じ商人への道。

「うがー、いけない。こんなことじゃいつまでたっても先に進めないじゃありませんかっ」

ぶんっ、と大きく頭をふって、ぱんと頬を軽く叩いて。
きゅっと手にしていた店売りの+5精錬済みマインゴーシュ(プラコンが足りなかったんだよ)を握りなおす。
考えるのは後、とりあえず目の前の敵を倒さなければお話にならない。
BOTに遠慮している場合ではないのだ。

よし、と気合を入れて。
振り返った自分の先にいた敵を―――てきを…………。



「なんでここにジルタスがいるんだーーーーーっ!?」



古木の枝かっ!?
なんて思ってみたところで、DEX=STRのしがない商人の俺が逃げ切れるはずもなく。





がすっ。





叫んだ瞬間に、俺の意識は遠くに飛んでいた。








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死に戻り特有の混濁する記憶の中で、セーブってどこだっけかなという意識が脳裏をかすった瞬間。
光の束がまぶたの奥に差し込むように明るくなって、急速に視界が開けた。

「………ここって………」

ぽろりと零れた自分の声が、まるで他人の言葉のようにゆるりと落ちて。
足が地面を踏みしめているやわらかい感触に。
ふっと目を開けた瞬間に飛び込んできた鮮やかな緑に。
重なる梢からは降り注ぐ木漏れ日のやわらかな日差しのあたたかさに。

……フェイヨン、だなぁ。

自分の今いる場所をはっきりと意識する。
ノービスから商人になって、レベルを上げるべく狩場を選んでふらふらしてて。
どう考えたって、自分はこんな山間の村に来る必要なんかなかったはずなのに。

……染みついた習慣って本当に恐ろしい。

どうやら、無意識に昔の溜まり場の近くをカプラ救済の登録場所として指定していたらしい。
どこまで未練がましいのやら……と、昔を引きずりっぱなしな自分の行動に苦笑しつつも、さすがにこれ以上懐かしい場所へ向かって足を踏み出すことは出来ない。
出来るわけがない。
自分なりの理由があるとはいえ、昔の仲間たちにはロクな挨拶もせずにギルドチャットで一方的に別れを告げて飛び出してきてしまったのだ。

……俺を覚えているヤツなんかいないよな。

ソレデイイのだと。
言い聞かせる意識とは裏腹に……ずきりと胸の奥が疼きだす。
きっと、吐く息すら染まりそうな、この濃密な緑が心身によろしくないのだ。
木々が織りなす深い深い緑色は、心の一番奥底にしまい込んだはずの──いちばん思い出したくない冷たくて熱い誰かの面影を呼び覚ます。

……情けないもんだな。

ほんの少し過去の幻影に触れるだけで、見かけばかりが威勢が良くて臆病極まりない自分は、両足が地面に縫い付けられたかのように立ちすくんでしまう。

選べた未来は複数択。
差し出された分かれ道を、決断したのは自分。
そう割り切って覚悟を決めていたはずなのに――。

……ちっとも振り切ってないじゃないか。

思い出は現実よりも美しく昇華され、過去はいつでも輝かしく見えるもの。
二度と、同じ時間に戻ることなどできない。
いつまでもこのままではいられない……と、感傷に縛られてここから動けなくなる前に、弱い自分の心を誘う未練を断ち切ってしまおうと。
ふるりと首を振って、いつもにこやかにスマイル0円をふりまくサービス業の鏡・カプラ嬢に空間転移の申し込みをしようとした瞬間。



「……リー? リーでしょう?!」



背中越しにかけられた懐かしい呼び名に、思わず自分の動きが止まった。
振り返った視線の先にいたのは、顔からこぼれ落ちそうなほどに瞳をまんまるにしている見たこともない職衣を纏った細身の女性。
この服装は――直接目にしたのは初めてだったが、噂ぐらいは見事に冒険世情と隔離された砂漠の僻地でも入ってきていたもので――目にも鮮やかな短めの深紅のマントは、確かクリエーターとか呼ばれている、道を極めたものにだけに与えられる上位の職業だっはずだ。

むろん、長らく冒険者生活から離れていた自分に、転生二次などという高位の知り合いがいるはずがない。
ないのだけれど……包み込むような穏やかな微笑みが、俺の記憶の中の一人のアルケミストの姿とぴたりと重なった。

「――もしかして、マディ?」

こめかみをトンと軽く叩いて、眉を寄せて。
半信半疑で呟いた俺の言葉に、「ええ」……と目の前の女性──マディーリカが、淡い水色の髪をさらさらと揺らして満面の笑みで頷く。
この、見ているだけでふわりと空気がゆるんでくるような穏やかな感覚は、確かに昔馴染みの女の子のものだった。
まじまじとよく見返してみれば、大きなヘイゼルの瞳には記憶のままの面影が色濃く残っている。
やっぱりそうだったかと頷き返して、はてと俺は首を傾げる。

……どうして彼女には俺が俺だってわかったんだ!?

自分は、特徴のある背格好でも飛びぬけて容姿が優れているわけでもない。
中肉中背で、いたって普通で平凡すぎるくらいの風体だ。
さらに、一次職から上級職への転職はあれど、上級職から一次職になるなんて……ないとは言わないけれど、かなり珍しいことではあるはずだ。たとえ昔の仲間に偶然出会うことがあったとしても、気付かれることはないだろうと思っていたというのに――なんでここまでアッサリ看破されてしまったのだろうか。
驚愕で声を失っている俺の腕を、彼女は自分の両手でしっかりとつかんで見上げてきた。

「リーの、崑崙特産とてもかたい桃のような綺麗なピンク色の髪は相変わらずですのね。遠目でも直ぐに分かりましたものv……あらそんなに目を丸くしちゃって。私、貴方が百面相をご披露するほど顔が変わってしまったかしら?」
「いや、そうじゃなくて、ソコじゃなくって……まぁいいか(ボソ) ……ん、あんまりマディが綺麗になってたから、ビックリしたんだ」
「まぁ、相変わらずお上手です。リーは……なんだか可愛らしくなってしまわれたのね」
「あー……その……」
「いいです。リーが『一方的に』『突然』『説明もなしに』失踪てくださったあれやこれやの言い訳は、後ほどゆーーっくりと語っていただきますわv」
「いや、だから……」
「何をぼーっとしているんですか。まさか場所を忘れてしまいました?」

もちろんキレイサッパリ忘れた!──わけがないだろうっ。

忘れることができなかったからこそ、思い切ろうとして意識的に気合いを入れていたばかりだというのに。
……いくら俺の神経が将軍ほどにズ太くとも、自己本位で飛び出してしまった古巣に、今更どのツラ下げてのこのこと姿を現せるというのか。

なんとかかんとか理由をでっちあげて。
たまり場へ誘う彼女の言葉を断ろうと、必死になっている俺の様子などお構いなく。
全開笑顔のクリエーターの女性に、つかまれた腕をぐいっと引っ張られたはずみで。
全力で言い訳を考えて意識がおろそかになっていた俺は、バランスを失い思わず前に足を踏み出してしまう。

……そうだった。

彼女はたおやかな外見とは裏腹に、とても押しが強い性格だったのだ。
けっして押し付けがましいわけではないので、嫌な感じは受けないのだけれど。
何故か自分の背を押し出すその手に……逆らうことが出来ないのだ。
しかも、なんだか。
彼女の聖女のようなやわらかな微笑みが、表情とは裏腹にとてつもなく凄みを帯びているように感じるのは気のせいなのだろうか。

……本当は、ものすごっい勢いで、怒ってるな……。

「みなさんがいるのはこちらですよ」……と、意気揚々と前を行くクリエーターに引きずられるように。
心なしか虚ろな足取りで移動する俺の姿は、さながら焚き火を前にした調理直前のサベージベベ(丸焼き風味)の姿そのものだったに違いあるまい……。




(2へ続く)


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