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[SS-SW] ほの甘い祈り

夏希→健二←佳主馬

正々堂々と健二を取り合う夏希と佳主馬という関係がとても好きです。
むろん夏希が総攻めで…(あれ?)
1年後くらい。

あ、見てるだけでヨダレでそうなおケーキ様の描写の転用を快諾してくださった、もぐもぐの女神さまありがとーう!v
愛してるよ~

■ほの甘い祈り


優美なライトをうけて、きらきらと宝石のように輝くテーブル。
生ケーキから焼き菓子、チョコレート、ゼリー類……豊富すぎるラインナップに目移りしてしまうのは仕方がない。

「うわぁ……素敵……!」

思わず、ほぅ…と漏らした私のため息を耳にしたのか、「良かった」……と安堵する声が小さく落とされた。

「楽しんでもらえてるみたいですね」

隣で囁かれた控えめすぎる彼の言葉に、「もちろんよ!」とにっこり笑って答える。

都内の某有名ホテルのホールを貸しきって催される、新作ケーキの試食会。
それだけを聞けばなんてことはなさそうだけれど、3つ星パティシエとの初コラボで日本発出展のレストラン合同企画で、クローズドケーキバイキングイベントとなると話はポップステップジャンプ的に話が違ってくる。
超プレミアムもいいところ、極秘事項だというのに注目度だけは鬼のように高く。招待チケットの入手ルート情報を手に入れる時点からが戦争だった……というのは実は大学の友人に聞いた話で。
目を爛々と輝かせて羨ましいと連発された言葉を「はぁ左様ですか」と受け流してしまっていたのだが。
さすがに調度品すらも上品なイベント会場に通されると空気が違う。
これで血沸き肉躍る……じゃない、目が輝かない女の子などいない。
でも――今回の注目ポイントはそれだけじゃない。

「だって、健二くんからデートに誘ってくれたってだけでもすごいことだもの」
「へ。……え! で、で、デート、とかっ!?」
「デートでしょ?」
「そんな、夏希先輩を、僕ごときが、で、デートにだなんて、おこがましいというか……その」
「あっ、だめ。健二くん、先輩禁止ってあたし言ったよね? 夏希って呼んでくれないと~」
「え、いや、その……な、な……夏希……さん?」
「なぁに、健二くん」
「あの…その……なんでもない、です……」

ぱちぱちと瞬きを繰り返して、耳まで真っ赤になって片手で口元を押さえながらもごもごと言いかけた言葉を濁す。
きっと、これはデートでいいのかな、なんてさもないことでぐるぐるしてるんだろうな。
たぶんあの夏がなかったら、一人で焦っちゃって情けないなぁ……ってだけ思って、そこで終わってた。
けれど、自分はもう知ってしまったから。彼の見せる表情は、彼を成す心のほんの一部を映し出すにしかすぎないってこと。

「そう? じゃあ、ケーキ取ってきてもいいかなぁ」

わざとその先を問うようなことはせずに、にっこりと笑いかけた。
特別招待イベントなだけあって、ちゃんと人数制限がされているせいか、やや混雑気味ではあるものの、テーブルには余裕がある。
適当に空いている席をがして、待ってますよと微笑む相手の言葉に甘えて、ケーキ皿とフォークを両手に私ははりきってスイーツハンターが群れを成す渦中へと出陣した。





「ただいまー」
「おかえりなさい……大量ですねぇ」

本気でぱちくりと目を見開いた彼の表情に、ふふっと笑って大げさに片目を瞑ってみせた。

「陣内家の人間はどんな時でも勝負するの」
「あはは、さすがですね」

答える声は、とても柔らかくておだやかで心地が良い。
一つ年下という点を考慮しても、目の前の彼は色は白いし男の人にしては線が細すぎるというのは否めない。
他人の目を借りて見れば、十中八九「頼りない」と評されるだろうし、実際の言動もしっかりしているとは言いがたいし、手を握っただけで頭のてっぺんまで真っ赤になってしまう様は奥手どころの話ではないだろう。

情けないとも言えるレベルだけれど、彼――小磯健二という人物に関しては、「女性慣れしていない」わけではなくて「他人慣れしていない」という方が正しいのではないかと思う。

彼が弱腰の後ろ向きのような言葉になってしまうのは、きっと、人の心を裏切りたくはないから。
口にしたことは守り通したいって言う、意思の表れ。
いつも一歩下がって人との距離を計るのは、どうつきあったらいいかわからないくて、驚いているから。
だから、一度でも接触を持ってしまえば、自分なりに理解しちゃってあとは大丈夫。
むしろ積極的になるくらい。

嬉々として皿を山盛りにして席についた私と入れ違いに、健二くんがさっと席を立つ。

「飲み物取って来ます」

ほらね、こんな感じ。
ほわりと笑って自然にカップを二つもって去る後姿に、こういうのがギャップ萌えってやつなのかしらと、どこかぶっとんだ感想を抱きつつ、サクサクのパイを口の中に放り込んだ。
もぐもぐと口を動かしていると、人ごみの中を割と危なげなく器用に避けて帰ってくる彼の姿が見えた。
けれど、抱えてきた飲み物をみて、私はちょっと唇を尖らせる。

「あたしアイスの方が良かったな~」
「だめです」
「……え」

笑顔のくせにきっぱりと言いきった彼の声の強さに、今度は私のほうがびっくりして瞬きをしてしまった。

「夏希先輩、ほんとはちょっと寝不足とかでしょう? 昨日レポートの締切りがあるって言ってましたよね。目が赤いですよ」
「あ……う……」
「そういう時って体温上がりにくいんです。だから温かいものでがまんして下さい。あ、コーヒーもだめです、散々昨日の夜飲んだでしょう? クリーム系は消化が悪いですから、胃を痛めるものはやめてください」

その代わりスッキリ出来るミント系のハーブティーにしておきましたから、なーんて……ぐうのねもでないってこのことなの。
渋々とほわりと湯気の出るカップを受け取ったら、磁器越しの熱に確かに指の先がひんやりしていたことを思い出した。
悔しいけれど、彼の言うことは正論です……ほらもう、こういうとこ強情なんだから。

「健二くんって、けっこう頑固なとこあるよね」
「え、で、でも。せかっく夏希せ……夏希さんと一緒にいられるなら、僕の好きな夏希さんの元気な顔が見ていたいなって、思っただけなんですけど……」

不意打ち過ぎる真っ直ぐな声。
言葉を脳が理解した瞬間、ぼふっ……と、頬が熱くなるのを感じた。

「夏希さん……? あの、もしかして具合悪いですか!?」
「健二くんって……ほんとはかなりタラシ系だよね」
「え、えええーっ!?」
「しかも天然だよね……も~~っ!」

赤くなった顔を誤魔化すべく、私はがーーーと猛烈な勢いで目の前の皿にある色とりどりのデザートを口に放り込んだ。

「単なるデニッシュがなーんでこんなにパリパリで美味いのかなぁ……やっぱりいい材料をふんだんに使ってるからよね。パイ生地をさくっとかんでるだけでバターの香りがふんわりと口の中に広がるとか、至福ってこういうことを言うのかも。
ガトーショコラやアマンディーヌ、バナナケーキ等の定番焼き菓子がむちゃくちゃ美味しいし、チョコなんかは分かりやすく材料の質が味に直結にしちゃうから、チョコが美味しいお店は嬉しくなっちゃうよね。
チョコムースのどっしりした甘さを、オレンジの酸味が爽やかに引き締めてくれて幸せ。生クリームもふんわり軽くて甘さ控えめで美味美味。
ピースが小さ目だからまたアレも食べたいけどこっちも味見したいっていう乙女心をくすぐる憎い気配りもまるっ!」

一心不乱に食べつくし、フォークを握り締めて叫んだところで、はっと我にかえる。

「……って、あれ、なんか白熱しちゃった……。なんかあたしばっかりしゃべっちゃって。ごめんね、退屈でしょ」

申し訳なさで思わずうなだれそうになった私に、フォークを口にくわえたままきょとんとした顔で健二くんが首をかしげた。

「え? いえ、そんなことないですよ。僕もちゃんといただいてましたし。みんなそうなんですけど……陣内家のみなさんって美味しそうにご飯を食べますよね……そんなふうに食べてるの見てるのって、それだけで楽しいです」
「そんなものなの、かな?」

そんなものです、と微笑む彼に、ふわっと心が軽くなる。
お世辞じゃなく、本気で言ってるのだと分かるから始末が悪いのよね。
男の人に可愛いっていうのも変だけど、こういう風に微笑む相手の仕草がほんとに可愛いなって思ってしまう。
でもそれは、このひとが、ほんとに必要な時にちゃんと守ってくれるっていうこと、知ってるから。
このひとの背中は、大切な人たちを守りきってくれたと知っているから。

「……でもほんとにどれもすっごく美味しい。健二くん、連れてきてくれてありがとう」
「あ、いえ実は……佳主馬くんが」
「……かずま?」

感謝の言葉に対して返ってきた聞き捨てならない単語に、思わずぴくりと眉宇が上がる。

「たまたまなんですけど、この企画の経営関係者が佳主馬くんのスポンサー内の人だったらしくて……」

キングカズマの熱烈なファンであるスタッフの要望もあって、是非にとイベントチケットが送られてきたのだという。

「佳主馬くんも別に甘いもの嫌いじゃないし。だったら三人で一緒にいこうって言ったんですけど……『お兄さん馬鹿? 興味ないし、どうみても場違いのお子様がいてもウザいだけでしょ。そういうのはカップルで行って来なよ』……って、怒られちゃいました」

目に見えるような二人のやり取りにくらりと眩暈がした。
相手にはばれないように(だって些細なことを気にしちゃうんだものこのひとは)思わずため息を吐く。

……っていうか、敵に塩送ってどーすんの。

こんなことを考えちゃう私の思考回路もどうかとおもうけど、分かっちゃうんだから仕方がない。
同じ人を追いかけてるんだから、気がつかないほうがどうかしてる。

あんなツンと澄ました態度をとってるくせに、佳主馬は割と甘いもの好きで。
健二くんはこんなにほにゃほにゃしてるくせに実は辛党寄り。だけど鯛焼きは大好きなのよね、ちょっと不思議……いや、いっか、今はそんなこと。
そうじゃなくて。
なりふりかまわず私と健二くんとの取り合いを繰り返してるくらいに、いつだって一緒に居たいって気持ちが溢れてるくせに、自分が一緒では『健二くんが』居づらいらいだろうなって思って、男女の方が自然だからと私に機会を譲ってきたのだ。

まったくもう、あの子は……年下のクセに生意気で可愛げがなくって自信家で尊大でなんだかしらないけどれっきとした女性である私より妙な色気までだしくさってちゃっかり声変わりまでしてきてウドのなんちゃらみたいに急成長しちゃって。
そんでもって何が一番呆れちゃうのかって、


「………佳主馬くんって、優しいですよね」


――ちゃんとこの人だって、あの子の心に気づいているってこと。









  ――家ではいつもひとりでした。


ぽつりと落とされた言葉が、今でも鋭い痛みをもって私の中に残されている。
決して自分の境遇を嘆いているわけではなく、一緒の時間を過ごせて嬉しかったと伝えたかっただけだと分かってはいる。
だけど。
だからこそ。
何気なく落とされた言葉の中に潜む、孤独という闇の冷たさに体の芯が凍えた気がした。

同時に私の中に芽生えた想い。
そのときは分からなかったけど、いまならこの気持ちにつける名前の候補くらい言える気がする。

幸せになってくれればいい。
喜んでくれればいい。
笑ってくれればいい。
ただ……それだけ。

あの子も自分と同じこと思っているんだろうっていうのまで分かっちゃって……ああもう、仕方ないよね!
だって私も家族が、みんなが……大好きなんだもの。



「あの……夏希さん、佳主馬くんの好みって分かりますか?」
「ん~、健二くんはどれが美味しかった?」
「僕ですか? 僕は…この3種類の栗ペーストのタルトかな。見た目より甘くないし、キャラメル風味も苦味がしっかり入ってて食べやすかったですけど」
「じゃ、それ。買ってこ? 佳主馬へのお土産決定」
「へ? え、と、それって僕の好みであって、佳主馬くんの好きなもののわけじゃ…」
「いいのいいの。その方が喜ぶから――っていうか、好物ってことなら間違ってないから」
「は? え??」

まったくもって理解していないであろう彼の反応に、ぷっとふきだしたら「なんなんですか、もう」と情けなく肩を落としてくれたので、更に声を上げて笑ってしまった。
健二くんが好きなものあげる、って言ったら、あの子は何してくれるかな。
っていうのは、ちょっと意地悪すぎるかな。
いえいえ、合戦中ですもの、これくらいはやらせていただきましょう。

「あ、そうだ。健二くんこっちむいてー」
「はい?」

――パシャ。

「え? 何で?? 僕の写真??」

疑問符いっぱいで首を傾げる相手にいいからと笑って、シャンパングラスに可愛らしく注がれた真っ赤なピューレを、そっとスプーンですくって口の中に放り込んだ。
中からイチゴやブルーベリーがころんと出てくる可愛いピューレ。
甘くなりすぎない味と、どこかはっきりしない形のまま口の中でとろける感覚。



うん、これくらいが今の私たちにはちょうどいいのかも。











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ぴろりーん。


「夏希姉から――?」

可愛らしい鹿の耳の女の子のアバターが持ってきたメールを、何の気なしに開いた瞬間。


ばったり。


見事な擬音つきで、褐色の肌の少年が硬直したまま真横に倒れた。


口元に生クリームをつけて見つめてるとかいう狙いすぎた写真に、思春期のウサギがノックアウトされたとかしなかったとか………。






end




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