[SS-SW] ポーラ・クラウン

(※09年のクリスマスの用に書いたものです)
サイトに乗っけたのでこっちにも。
年明けからはこっちにSSはのせないようになる……と思うんですけども、予定は未定ですー。


デパートのクリスマス特設売り場で、ラッキーチャームがわんさか集められていたんですよ。
王冠の説明で「へー」…とか思ったら、すっこーんと頭の中で王冠被ってるウサギが出てきちゃったとかいう。
ポーラスターと王冠をかけてみました。


■ポーラ・クラウン



ぴこーん、とチャットルーム内に鳴り響く軽快な電子音。
何もない空間にすっと浮かび上がる『arrival』のフキダシ。
あ、と思うまもなくキラキラとした電子の光が収束し、目の前で一つの形になってゆく。

「ごめん健二さん、遅くなった」

キラキラがふさふさになって、白い毛並みがふわりと舞って。本当だったら(現実だったら)ちょうど自分の胸元くらいにあるはずの彼の瞳が、真っ赤なルビー色を煌かせて僕を見下ろしてくる。
ああやっぱり、ウサギの目って赤いんだなぁ……なんてことを思いながら、大丈夫だよの合図にぺたりと地面に座ったまま、尻尾だけをぴょこりとふってみせる。
よんどころない事情で(というよりはなし崩しに)使うようになった、お世辞にも機能性が良いとはいえない微妙なのリスタイプのアバターだけれども、このもふっと存在感のある尻尾は非常に使い勝手がいいということに最近気がついてきた。
どこかとぼけた感が漂う顔の造作より、尻尾一振りの方がよっぽど喜怒哀楽をつぶさに伝えてくれる……って、表情の方が乏しいって、やっぱりこのアバターって問題があるんじゃないだろうか。

お前のためを思って最短で仮アカウントを組み上げた俺の行為を無にするのか……という親友の胡散臭い嘆きとか(どう考えても面白がってるだけだって分かるから無視しても良かったんだけど)。
可愛いから変えちゃダメという憧れの先輩の訴えとか(女性の可愛いの基準って不思議だ)。
自分の知ってるアバターはこっちだから変えないでという年下の戦友からのお願いとか(どっちかというと怒られてるような気がしたのは気のせいかな)。
仮仕様だったアバターに権限を移したのは早計すぎたかなと今更ながらに考えてしまったり……どのみち、不細工加減が絶妙なリスもどきに愛着が湧いていたのも事実なのだから、結果は一緒か。

「……健二さん?」
「あ、ううん。ごめん、何でもない」

自分の考えに夢中になってぼうっとしていただけなんだけれど、指定した時間に間に合わなかったせいで僕が黙り込んでしまったのだと勘違いさせてしまったみたいだ。あわてて短い手をふって、「ぜんぜん、佳主馬くんが遅れたなんてことないよ?」……と声をかける。
遅れたって言っても、ほんの20分くらいのことだし、ちゃんと事前にその理由についてのメールだってくれたのだから、彼が謝る理由などどこにもないのだ。

「ホームルームが長引いたんだって? 何かあったの?」
「………くだんないことだよ。修業日にクラスでクリスマス会しようとか言い出したヤツがいてさ、その日取りで時間とられた」
「あそっか。佳主馬くん、もうすぐ冬休みなんだ」

そんな時期だよね……と、見上げた天井で星が瞬く。
OZ内もすっかりクリスマスシーズン到来で、あちらこちらが赤と緑のカラーに彩られている。
普段はシンプルで飾り気なのないプライベートチャットルームの中でさえ、ポインセチアを模した鮮やかな赤い柄が壁に描かれ、時折小さな星がきらりと光っている。
よく見るとチャットルーム全体をツリーに見たてているらしく、空間にさりげなく輝くイルミネーションに気がついたりと、ささやかなギミックを探すのもなんだか面白かったので、待っている時間など本当に苦にならなかったのだ。

「あはは、いいじゃない、クリスマス会とか。楽しそうだよ、そういうの」
「冗談でしょ……早く帰りたかったのに」

ふいっと拗ねたように逸らされた横顔に、あ、やっぱり中学生なんだなぁ……と当たり前のことが思い出されて、思わず笑みを誘われる。
すっと背筋を伸ばして立っているだけでサマになってしまう、格闘向けに最適のチューニングをなされたウサギタイプのアバターは、多種多様な人たちがひしめく仮想空間OZの中でも超がつく有名人。
『キング・カズマ』という名を……OZマーシャルアーツの世界チャンピオンである彼の存在を知らないでいることの方が難しいだろう。
実践での格闘技経験を生かして、抜群のレスポンスでトーナメントを勝ち続けてゆく姿はすさまじいとしか言いようがない。
連戦練磨の実力はさることながら、見ほれてしまうのだ……繰り出す技の鮮やかさに。
――上に立つ人間には、人を魅せる力がある。
誰に言われた言葉かは思い出せないけれど、確かにこの目の前の彼には……本当はまだ少年と呼べる域のこの相手の瞳には、はっとさせられるほどの強い力がある。
現実世界でこそ年齢や身長を上回っているけれど、たぶんそのどちらも早々に追い抜かれてしまうんだろうなと、そう遠くない未来を思う。
ひょんな縁で出会い。
冴えない一介の高校生にしか過ぎない自分とは今でこそ一緒にいてくれるけれど……きっと、置いていかれてゆくことだろう。
だけど、それは……全然全く、悪い気などしない。
実際に4歳差を越すなんて事はないのだけれど、彼の先にある未来は可能性に満ちていて、年齢差なんてものを飛び越えて、今に、もっともっと光輝くに違いないのだから。

「……で、今日はどうしたの?」

未来の光のまぶしさに目を細め、僕は彼の話をうながす。
OZ内で彼と話をするというのは、珍しいことじゃない。……珍しいことじゃなくなった、という方が正しいのか。

憧れの先輩にしかすぎなかったはずの夏希先輩を含めて、「OZでまた」という言葉とともに三人で互いのアドレスを交換したのは上田からの帰り間際のこと。(抜け駆けなしでとか二人で言ってたけど、なんだったのかな)
アバターの切り替えを契機に新調した携帯電話に、登録されたばかりだった3件のアドレスは(新機種をもってると分かった瞬間に佐久間が勝手に僕のに入れたんだ……手間が省けてよかったんだけど手が早いよな)、ほんの1週間もたたずに20件に膨れ上がった。
『他人行儀は水臭い』と、夏希先輩が一族全員分の連絡先を転送してきたのだ。緊張の連続だったけれど、みんなと一緒の夏が過ごせたというあの時間がずっと 続いているようで……自分としては、つながりがあるという実感ができただけで嬉しかったのだけれど、話はそれだけでは終わってくれなかった。
ついでとばかりに、夏のあの一件で、良くも悪くも目立ちすぎてしまったアバターで公的スペースを出歩くのは問題だと、佳主馬くんから陣内家専用のプライ ベートチャットルームのアドレスまで送られてきて。さすが部外者がのこのこ顔を出すのはどうかと気後れして、しばらくログインできずにいたら、電話、メー ル、果ては部室へ直接交渉と乗り込まれて何故こないのかと問い詰められて。
そして……気がついたら、最低週に1度くらいのペースで定期的にチャットルームで誰かしらと話すようになっていたのだ。

だから、日常の何気ないこととか、話すのは珍しいことではない。
けれど、佳主馬くんからの呼び出しでっていうのは、すごく珍しい。
特に――いつもの部屋ではなく、別の場所を指定してだなんて。

――悩み事、あるのかな。

家族、とか。
近すぎる人には、言い出しにくいことっていうのがある。
けれど、他人に話せるような内容じゃない――きっと悩んでることがあって、でも相談するわけじゃなくて(彼は自分で決めて前にすすむ道を切り拓いていける人だから)『誰か』に聞いてもらいたいんじゃないのかな。
……そんな風に感じて、会いたいという内容のメールに、「いいよ」と二つ返事で返したのだ。

呼び出したはずの張本人のはずの彼は、僕の問いに迷うようにしばらく沈黙して。
意を決したように、僕を向いたかと思うと……そのまま隣にすとんと腰をおろし、おもむろに僕の尻尾をぽむぽむとリズミカルに軽くたたきはじめた。

「佳主馬くん?」

横目で彼を見ると、非常に楽しそうに尻尾をもふっている。
これってあれかな、精神安定道具っていうか、癒し系グッズっていうか、もふもふしてると安らぎますよーっていう類のしろもの。
……これなんだよね。
いつものことなのでもう慣れたけど、彼は僕のアバターの尻尾が大層お気に入りらしい。いわく、触ってると柔らかくて気持ちよくて落ち着くとか……アバター同志でなでたところで、モニター越しに感触など伝わりようがないと思うのだけれど、好きなんだと言い切られてしまった。
まぁ、それで相手の気が紛れるなら別にいいかと思うことにした……意外な尻尾の有効活用だけど。
ただ、ちょっと公衆の面前は勘弁してもらいたいけれど。

「健二さん」
「うん?」
「僕、冬のトーナメントに出るよ、決めた」
「……かずま……くん」

息をのんで見上げた先で、揺るがない強い眼差しが僕を真っ直ぐに射抜く。
全てを見透かすような、しっかりと相手の目を見て話す意思の強さ。アバター越しとはいえその威力は弱まることはない。

――勝つから。

静かに続けられた言葉の強さに、こくりとつばを飲み込む。
低い声とは裏腹に、こめられた想いの熱さに胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


AIの暴走にアカウントのっとりに原子炉爆破の危機。あの夏、仮想都市OZは、未曾有の大混乱に立て続けに襲われた。
その混乱の最中、キング・カズマは人工知能でる主犯『ラブマシーン』にタイトルを奪われたのだ。が、ベルトを奪われた直後こそ契約破棄をつきつけてきたし ポンサー陣が「プログラムを書き換えられ内部はひどい有様になっていたのだから仕方がない」と事件直度に手のひらを返し、OZ公式発表としても『そもそも 試合はなかった』ことになっていた。
だが、ここが電脳空間の落とし穴というべきところか。
防御が崩れたラブマシーンに対して、最後に身体ごとふっとばすほどの決定的な一撃を与えたのはカズマの強烈な右フックであったが、これは試合形式での話ではない。
非公式とはいえシステム上は『行われた』ことになってしまったストリートファイトのおかげで、所有者のラブマシーンが消えてしまった今、チャンピオンベルトが完全に宙に浮いた状態になってしまったのだ。

『キング・カズマ』は、いま。
『キング』ではない。

けれど――誰もが知っていた。
『キング』の名を冠するのに、誰が一番ふさわしいのかということを――きっと、他の誰よりも、佳主馬くん本人こそが――。


うん、と頷き。
自分の目線よりはるかに高い相手をじっと見上げる。
ウサギのアバター越しに見える、13歳の少年の姿。
賛否を全て受け止めて挑んでゆくその肩が、ほんの微か震えているような気がする。
当たり前だ――世界という、信じられない重圧をその肩に受けて、数え切れない人々の期待を背負って新たな一歩に挑もうとしているのだから。
けれど、彼は逃げない。
立ち向かうことを自ら選び取ったのだ。
自分の足で立つために。

――すごい、本当すごい。

「本戦じゃないから微妙なんだけど。あの事件以降では、OZ内ではじめての公式戦だから、やる価値はあるかなって……負けるつもりなんてないけど」
「もちろん! 佳主馬くんは勝つよ!! っていうか、キングはカズマくん以外にいないしっていうか、ああもう、佳主馬くんおめでとう!!!」

すごいよっ!……と勢いづいてぴょいと立ち上がって詰め寄った僕の興奮具合に押されて、佳主馬くんがぱちりと瞬きをする。

「ちょっ! 健二さん、落ち着いて……落ち着いてってば。はじまってもいないのに気が早すぎ…っていうか、なんで健二さんがそんなに嬉しそうなの」
「当たり前だよ!」

自分のことのように嬉しい――いやいや、自分のことより嬉しいに決まってる。
ただひと夏、危機的状況を一緒に乗り越えたというだけの間柄かも知れないけれど、その一瞬で伝わってきたことがある。自分の知っている池沢佳主馬という人間は、誰かが決めた称号を与えられて、よしとするような人ではない。

「やっぱりカズマくんはキング・カズマだ」
「だから……まだわかんないって」
「大丈夫、僕が保証する」
「だから、なんで健二さんがそんなに張り切ってんの?」
「だって……なんでだろうね?」

呆れたように、面白そうに笑い出したウサギにつられて、僕も一緒になって笑い出した。
「あ、別にプレッシャーとかかけてるわかじゃなくって」と付け足した僕に、分かってるって言いながら、佳主馬くんはまた僕の尻尾をもふもふしはじめた。

他者など寄せ付けない圧倒的な強さでチャンピオンベルトを奪還し、王者の魅力で誰をも凌駕するキング・カズマとなりえる。
それは当然過ぎる未来なのだと分かっている……いや、分かっていた、なんて、さすがに恥ずかしすぎて口が裂けてもいえないけれど。この少年が自分の力で立ち上がるであろうことを、確信にも近い想いで自分は信じていたのだ。
こんな決意を聞かされて、嬉しくないはずがない。
何か、彼の力になることが出来ればいいのだけれど……

――あ、そうだ。

「佳主馬くん、まだ時間ある?」
「あるけど、何」
「ちょっと待っててもらってもいいかな」

訝しげに首を傾げた佳主馬くんに、30分後にまたここでと言い置いて。
僕は急いでチャットルームを飛び出した。









「おまたせ!」

30分後きっかりにチャットルーム飛び込むと、部屋の中央で天を見上げていたウサギがゆっくりと僕を振り返った。

「おかえり」

迎えてくれた声の主にぱたぱたと走って近づいて……はっと現実(いやバーチャルだけど)に気がつく。
現実とは真逆……以上の身長差。背伸びをしても相手の膝を超えるくらいが精一杯とか。
どう足掻いても手など届かない。
構造上の致命的問題にいまさら不平を述べてみても仕方がないので、

「えーと、カズマくん。悪いんだけど、かがんでくれるかな」

? という疑問符満載の顔で前かがみになってくれたけれど、この短すぎる腕じゃまだ届かない。短足に短腕って、なんか泣けてくるなぁ。

「ごめん、もうちょっと…」

更にお願いを重ねると……すっと、彼は僕の目の前ですっと片膝を落とした。
まるで中世の騎士みたいなポーズが決まっていて、さすがにかっこいいなぁ……なんて思いつつ。

「あ、これくらいなら大丈夫そう。……ごめん、ちょっとだけ佳主馬くんも目を瞑っててくれるかな」
「……なんなの?」

モニター越しの佳主馬くんが不思議そうな返事を返してきたけど、くっと僕の言った通りにしてくれてるんだと思う。
僕は、手を伸ばして今しがた手にしたばかりのアイテムを、彼の頭の上にそっとのせた。

「いいよ、目を開けて」
「なんかもったいぶってるけど。何が――え?」

ぱちくり、と。
ウサギの瞳が瞬いた。
カズマくんの頭の上には、金色の王冠。

「アカウント保持者全員がもらえる、OZからのクリスマス限定スペシャルアイテムがあってね。一定期間だけOZのアバター用アクセサリーショップ内で売っ てるを何でも一つ模写できるってものなんだけど……ちょっとズルしちゃって、佐久間にグラフィックだけちょっといじってもらったんだ」

でもプログラムを書き換えるようなことはしてないから!……と断りを入れると、佳主馬くんが「ふうん」と呟く。

「……チャンピオンベルト、じゃあないんだね」
「だって、ベルトは佳主馬くんのものになるって決まってるからね。僕からはいらないでしょ?」
「――言うね、健二さん」

まん丸になった瞳がほんとにビックリしてるみたいで可愛らしくて、思わずくすりと笑んでしまう。

「王冠って、『勝利を掴む』っていうお守り(ラッキーチャーム)なんだって。1日で消えちゃうけど……佳主馬くんが王様だっていう証明だよ」

僕は、自分のことには自信がない。
けれど、人の強さを信じることならできる。

「君なら絶対できる」

ゆっくりと立ち上がった彼の頭上で、星の光を受けた王冠がきらりと輝いた。
宝石のような真っ赤な瞳が、じっと僕を見つめ返す。
貫くような強い眼差し……でも逸らすことなんてしない。

大丈夫だよ。
君は、負けない。


――わかった。

ため息のように吐き出した彼は、「その代わり」といいながらひょいと僕を抱きかかえた。
目線をしっかり合わせて、覗き込んで。

「責任とって。ちゃんと、一番近くで見ててよ」

約束だから……と続けられたその言葉に、

「うん、もちろんだよ」! 

大きく頷いて、「整理券並んでとりにいくからね!」……と笑いかけたら。

「…………わかってないし…………」

耳をたらしてがっくりうなだれてしまった。





あれ、観戦チケット送ってくれるって意味だったのかな?





















覚悟なんていやというほどしてきたはずなのに。

「…………わかってないし………」

不意打ちのプレゼントと、相変わらずの見事な天然すっとぼけ具合に、力が抜けて思わず机の上につっぷしてしまう。

――まぁ、健二さんらしいんだけどね。


本当はそばにいたかった。
ちゃんと、貴方の声を聞きたかった。
何よりも、ぬくもりを確かめたかった。

本当にそばにいなくてよかった。
手を伸ばして抱きしめて、きっと放しはしなかっただろう。
今はまだ何一つ相手に敵わない自分という現実に、打ちのめされていただろう。

――でも、自分が王であるという証を、貴方はくれた。

イミテーションなんかじゃない、心の中にともされた確かな光。
貴方のくれた王冠は、本当だから。
あきらめることを許してはくれないその瞬きは、僕の行くべき道を頭上から真っ直ぐに指し示す。

「……負けない」

勝利はこの手に。
それは絶対。


――大切なものを、守るために。








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