[SS-RO] 鳥とアサとプリ(♂×♂)

がんばれバードくん(♂と♂)

ろもえろのキリリクで、へたれバードが出てくる大人な雰囲気(?)物語。
見出しはギャグですが、中身はシリアスっぽい。


■光の森


「――あっ」

しまった、と思ったときにはもう遅かった。
びょいん…と、爪弾き損ねた弦が、とても間抜けな音をたてて指からはなれる。
一度崩れてしまった音は、もうもとには戻らない。

「……また同じところだ……」

はぁ……とため息をついて。
僕は手にしていたリュートを草むらの上に置いた。

ちゅん……ぴぴぴぴ…。
木陰でさえずる小鳥たちの合唱は、あんなにも綺麗に青空の下に響いているというのに。

「ああーもうっ」

ばたんっと、片腕で目を覆いながら僕は後ろに倒れこんだ。
どうしてなんだろう。
聞く人に心を伝える『音』を自在に操るバードの姿にあこがれて、この道に進んだことに後悔はない。
ない……のだけれど。
理想と現実の絶壁というか。
今のままでも悪くはないと思う。
けれど、歌うたいを生業として生きたい自分としては、自分の紡ぐ『音』の何かがしっくりとこなくて。
何度くりかえしてみても、その『何か』がわからなくて。
こうしてこそこそと、人のいない森の中で練習していたわけなんだけれど。

「……音痴って、わけじゃないと思うんだけど……なぁ」
「ほんの一呼吸……、いえ、半呼吸くらいですかね。歌い出しが早くなっているだけですよ」
「――うわっ!!!!?」

びびびびび、びっくりしたぁぁーーーーっ!

いないはずの人の声に驚愕して。
思わずがばっと飛び起きてみると、僕が座り込んでいた草むらの目と鼻の先の木の下で。
年月を感じさせる太い幹にもたれかかり、ひっそりと佇んでいるプリーストの姿が飛び込んできた。

声の主の姿をしっかりと認識するにつれ、僕は、思わずぱちぱちと瞬きを繰り返してしまった。
ぽかん…と、間抜け顔で口を開けたまま固まってしまう。
……だって、夢を見ているんじゃないかと、思ったんだ。

――こんな綺麗な人、見たことないよ。

淡い金色の髪が風にそよいで。
空よりも澄み切った青い瞳が優しく笑んでいて。
森の精霊が人の形を真似て出てきたんじゃないかっていうくらい、端整な顔立ちが見惚れるくらい現実離れしていて。

誰もいないからと思って大声を張り上げていたのに、この綺麗な人に全部聞かれていたかと思うと……うわぁぁ、顔が熱くなってきたーっ。
何で気がつかなかったんだ自分ーーーっ!?

真っ赤になっている僕の顔を、怒っているのだと思ったのだろうか。
プリーストさんが、ちょっと目を伏せて僕に向かって軽く頭を下げてきた。

「すみません、勝手に聞いてしまって……盗み聞きされたのですから、気分を害するのも当然ですよね」
「えっ!? ちちちち、違いますっ……あの、僕、人がいるって、全然気がつかなくって勝手に声を張り上げていたとか。調子ハズレの歌とか

聞かせてしまって、恥ずかしいというか……」
「綺麗な声ですね。貴方の音が消えてしまうのが勿体無くて、思わず声をかけてしまったんですよ」
「!!!!!!?」

なんですとーーーっ!!!?(混乱)

そんなことを言われて、嬉しくならない歌うたい見習いがいるというのなら、是非とも僕の目の前に引きずり出してきていただきたい。
もちろん僕は――夢見心地のふわふわ気分絶好調の有頂天になってしまって。

「もう一度やってみましょう? 大丈夫、今度は絶対うまくいきますから」

半呼吸ですよ……とくりかえす相手の声に何故か逆らえなくなって。
僕は脇においていたリュートを抱えて、さっきと同じ旋律を爪弾いた。

半呼吸、はんこきゅう……と。
呪文のように胸の内側でくりかえして。


 ぽろろん……♪


「……あ」

自分の口から出た音と、リュートの奏でる音の違和感が、綺麗に消えていて。

あんなに、何度やってみてもできなかったのに――!

嬉しいだけじゃなくて。
達成感だけじゃなくて。
喉元にぶわっと湧き上がってくるこの気持ちを、どう言葉にすればいいのかわからなくて。
思わずプリーストさんの顔を見上げると、彼は全て分かっているかのように、ほんわりと微笑んで僕を見ていた。

「あの、あの……ありがとうございますっ!」
「声も良いし音も合っているんだけど、タイミングが分からなかっただけだったみたいですから……お節介だったかな」
「いえ! 本当に助かりました!!……あの、何かお礼ができればいいんです……けど……」

僕の語尾がだんだんと弱弱しくなってゆく。
なにしろ、職違いの人にまでしっかりばっちり指摘されてしまうくらいのかけだしなのだ。
何かお返しをしたいという気持ちは本当なのだけれど、お世辞にも豊かな懐事情とはいえない。
そんな僕の情けない状況すらも見透かされていたのだろう。
どもどっている僕とは対照的に、夢の欠片のような聖職者さまは、透明な笑顔でふわりと笑って。

「じゃあ、ひとつ頼まれてくれるかな」

今から口にする曲を覚えて、1ヶ月後にこの場所にやってくる、ある人の前で歌って欲しい――と続ける相手の声に、そんなことでよければと僕

は夢中で頷いた。
それが――プリーストがつむぐ言葉に、どんな想いが託されたいたのかと、気がつくこともなく。

「一度しか言わないから」

よく聞いてね――と囁く言葉にごくりと唾を飲み込んで。
みつめたその先で、軽く目を伏せたプリーストがゆっくりと口をひらいた。





  暗い闇の森を 青い空の下を
  私は行く 遠いこの世の果てを

  風を渡る時が過ぎ 生まし地は夢の中となりても
  心の求むるままに 終わりを告げぬ道を歩みゆき
  暫時の火影の中に 安らぎを求める事になりても
 
 『何処にでも無いから 何処にでも居る』と 
  心に届くは君の声

  いつか誰も知らない土に埋もれようと
  急ぐことは無い 次の始まりはほんの瞬き

 『何処にでも無いから 何処にでも行ける』と
  私の心はくりかえす

  いつか出会った光の森に辿り着くまで
  左の胸に届くは やさしいやさしい君の声







「覚えた?」
「はい…なんとか…」

透き通るような、真っ白な声ってあるんだと。
ぼんやりしている頭の中で、ぐるぐると不思議な感情が渦を巻いている。

「けど、この曲って……」

忘れないようにと、耳に入れた旋律を何度も頭のなかで再生しながら。
僕のなかで受け取った感情を、なんとか言葉にしようとしてみる。

はじめて聞いた曲だというのに、どこか懐かしいと思ったこととか。
やさしくて、温かい感じのする曲調だというのに……ひどく胸に迫るような物悲しさを感じるだとか。
誰が作った曲なのだろう?……という疑問が浮かんだのだけれど。

……聞いてはいけない、そんな気がした。


「お願いします……」

顔をうつむかせて呟いたプリーストに向かって。
「わかりました」と僕はしっかりと頷いた。



考えてみれば、冒険者を目指してアーチャーになって。
晴れて憧れのバードになってから、はじめて受けた他人からの頼まれごとだったわけで。
恩義もあるけれど、それ以上に失敗は――多少は仕方がないかもしれないけれど――せめて、みっともない無様な真似だけははしたくないと思

って。
自分なりに気合を入れて、約束日を指折り数え、約束の場に臨んできたのだけれど。

「……誰も、いない………?」

きょろきょろと周囲を見回してみるけれど、ひとっこひとり、影すら見当たらない。
間違ってはいけないと、何度も足を運んで場所を確認したのだから、ここで合っているはずなのだ。
あれからあのプリーストさんには会う事はなかったけれど、でまかせを言うな人ではなかったし。
何より、僕のようなどうみても格下の冒険者相手に頼みごとを口にするその表情は、とても真剣で。
悲しいくらいに、綺麗だった……あの瞳を、裏切りたくはない。

「まだ、来ていないだけなのかもしれないなぁ……」

はふぅ、と息をつきながら一人ごちると。
張り詰めていた空気がほわりと抜けていくのを感じた。

――大丈夫、だよな。ちゃんと、覚えられた……かな。

もちろん、僕の心の内側の不安に、答える声なんてない。
しん……と空気に染み渡る森の静けさに、なんだか妙な緊張感を覚えてしまう。

――ちょっと練習しておこうかな。

すぅ…と息を吸って。
消え入りそうなプリーストの姿を思い出しながら、僕はゆっくりと声をつむぐ。



  暗い闇の森を 青い空の下を
  私は行く 遠いこの世の果てを

  風を渡る時が過ぎ 生まし地は夢の中となりても
  心の求むるままに 終わりを告げぬ道を歩みゆき
  暫時の火影の中に 安らぎを求める事になりても



弦の音がなくても、すらすらと口をついて出てくる歌詞。
……うんだいじょうぶ、覚えている。
一度だけだからといいながら聞かせてくれた、金色の髪のあの人のような空気に溶けてしまいそうな繊細さは真似できないけれど。
その分、伝えたいという願いを一生懸命につめこんで。
やさしく沁みるような音には、できているのではないかと思うんだ……思いたいたいなぁ。

と、そのときだった。

かさり…と。
本当に小さな、葉擦れの音が僕の耳に届いて。
びくりと肩を震わせ、僕は歌うのをやめて音のした方向を確かめる。

――あ、あれっ? 誰も……いなかった…よね?

僕の視線の先には、一人の男の人がいて。
この人が、プリーストさんの言っていた『あの人』なんだろうか……と、思わなくはないんだけど。
……たぶんそうだとは思うんだけど……あの、その………。

――………こ、怖いよぉぉぉっ!!!

無言で僕を睨みつけるように投げかけてくる視線が怖いというのもあるけれど。
この人――銀色の髪のアサシンさんの、左目の上に走った大きな傷跡が、いっそう僕の恐怖心を刺激してくれる。
きっと眼球まで傷がついているのではないだろうか……冒険者なんて職業をしている以上、多少の傷は覚悟の上とはいえ……この傷はよっぽど

のことがなければできやしないだろう。
いや、人は見た目ではないと僕だって分かってはいるのだけれど。
知識で感情は簡単に頷いてくれない。
お世辞にも歓迎されてるとは言いがたい雰囲気だし……何より、この隻眼のアサシンさんの無表情がものすっごく怖いんですっ!

氷のように冷たい瞳が、及び腰になっている僕をちらりと見て。
薄い唇が、微かに開かれた。

「………続けてくれ………」
「は……はい?」

あまりにもかすかな呟きに、聞き間違いかと思って。
上ずった声で聞き返してしまったら、じろりと睨まれてしまった。

「……は、はいっ!!」

なんだか妙な具合になってしまったけれど。
これで、ちゃんと依頼を果たすことは出来そうだ。
でも……思わず、物騒な雰囲気満載のアサシンからつぅーと視線をそらして。
すーはーと、深呼吸を繰り返して。


僕は、もう一度すぅーっと息を吸い込んだ。



 
 『何処にでも無いから 何処にでも居る』と 
  心に届くは君の声

  いつか誰も知らない土に埋もれようと
  急ぐことは無い 次の始まりはほんの瞬き

 『何処にでも無いから 何処にでも行ける』と
  私の心はくりかえす

  いつか出会った光の森に辿り着くまで
  左の胸に届くは やさしいやさしい君の声




ちゃんと、プリーストさんの願いどおりに、僕は歌えているんだろうか……?
少しばかりの不安とともに、なんとか歌い終わって、はーと息をついていると。

「……誰から聞いた?」

ぼそり、と。
声がかけられた。

「え!? あっと、その………」

うわぁぁん、だから、その迫力眼力やめましょうよぉぉぉ!!!・゚・(ノД`)・゚・。

もちろん、僕は。
リズムが取れなくって壮絶美形のプリーストさんにご指導いただいたことまで、洗いざらい白状させていただきましたとも!
……ううう、情けなくてすみません……。


要領がわるくて余計な話も多くて。
どもどりなががらの僕の説明を、声を荒げることもなく最後まで辛抱強く聞いて。

「……そうか……」

ぽつりと呟いた隻眼のアサシンさん。

……あれ?
なんだろう……??

気のせいだろうか。
話をしていくうちに、なんだか、どんどんアサシンさんの表情が……。






  その時、僕は知らなかったのだ。


  少し前に、王命でゲフェニアへの大規模な探索隊が結成されて。
  余裕を持って組まれたはずのPT編成は、予想以上の魔物の群れに壊滅寸前の憂き目にあって。
  ……すぐに身柄を回収すれば、本来なら助かるはずだったのに。
  手続きさえ踏めばいつでも開くはずのゲフェニアへの門が。
  許容量を超える空間の転移に耐えられなかったのか、門への扉にひずみができて――。

  閉ざされた扉がふたたび開くまでに、1ヶ月という時間がかかってしまったとか。
  取り残された人たちを探したけれど……身に着けていたものすら、見つけることができなかった……とか。


  何ひとつ、知ってはいなかったのだけれど。







「すまないが、もう一度歌って貰えないか」


僕の方を向いて、声を紡ぐ相手の表情が。
悲しいほどに……やさしく、見えて。
不思議と、彼に対する恐怖心が消えてしまっていて。

しっかりと頷き返しながら、僕はゆるりと口を開いた。



「――貴方の望むままに」









  暗い闇の森を 青い空の下を
  私は行く 遠いこの世の果てを



身じろぎもせず、僕の声に耳を傾ける人。



  風を渡る時が過ぎ 生まし地は夢の中となりても
  心の求むるままに 終わりを告げぬ道を歩みゆき
  暫時の火影の中に 安らぎを求める事になりても



気がついていた。
見てはいけないのだと、知りながらも。
完全に目を離すことなど、できなかった。


 
 『何処にでも無いから 何処にでも居る』と 
  心に届くは君の声




僕を通して、あのひとを見ている彼が。




  いつか誰も知らない土に埋もれようと
  急ぐことは無い 次の始まりはほんの瞬き




人知れず涙を流していることを――。




 『何処にでも無いから 何処にでも行ける』と
  私の心はくりかえす

  いつか出会った光の森に辿り着くまで
  左の胸に届くは やさしいやさしい君の声










僕は、その日、はじめて知った。
こんな風に声を殺して。
声なき声で叫ぶように。

人は――大人は、涙を流すのだ……と。






声が、空に、吸い込まれて、消えた。





(終わり)


comment

管理者にだけ表示を許可する

10 | 2017/11 | 12
Su Mo Tu We Th Fr Sa
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
New
Category
Archive
Link