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[SS-SW] 天然素材

佳主馬→→→←健二な未来の話。
高校生と大学生くらい。

移植するだけなのに遅くてすいません。
どの話から先にやればいいんだか、とほ。
(クリスマスは後でもいいよな)


■□□天然素材



ぐぅ……という。
なんとも庇護欲を刺激する声をあげたのは、さてどちらのお腹の虫だったのか。

そういえば、と。流れるようにタイピングしていた手を止めて画面チラリと右下隅のデジタルクロックに目を走らせる。
午後2時48分。
――つまり、お昼のお食事時間帯と言うものはとうの昔に過ぎているわけだ。
それはお腹もすくはずだ…と思い、書きかけのメールに手早く数行つけたし送信すると、ノートパソコンをシャットダウンする。

一緒にいる時間を長くしたいから……なんてことは口にしなくても伝わっているようで、休みついでに部屋の主のところに泊りがけで転がり込んだときには、お互いに示し合わせるように朝は早くご飯もきちんと二人で食べる。
歳の割には白くて細くて童顔で、放っておくと食事と称した固形物で済ませてしまいそうな相手だったから、余計に食事内容に気を使う。
別に太らせたいというわけじゃないけれど、あまりの線の細さに(本人は普通だと言い張るけど)いつ倒れてしまうかと心配するのはたまらない。

「健二さん、台所かして。何か作るよ」

勝手知ったるなんとやら。
ノートに向かって一心不乱にペンを走らせている背中に声をかけつつ立ち上がると、はっと慌てたように顔をあげた彼の手が、引き止めるように俺を追ってきた。

「まって、今日は僕が作るよ」
「え?」

珍しい。
と思ったのは、言葉の内容よりも、すぐに反応があったことのほうっていうのは口にしないお約束。
むしろ、言ってもいまさらという話。数字の世界に入ってしまったこの人を引きずり出すのは容易ではないのだから。
――まぁ、そこまで入り込めるのは気心の知れた間柄じゃないと無理らしいので(なんでこんなこと佐久間さんから聞かされなきゃいけないんだと、ちょっとむかつくけど)特別だと思えばそれもよし。

いや違う。そんなのはいい。
今はお昼ご飯のことでしょ。

「だからさ、一緒に買い物行こう?」

……と、ふわりと微笑みながら小首を傾げてお誘いとかどういうこと。
こんな風に可愛い恋人に囁かれて、頷かない男がいるものかと問いたい。
キング終了のお知らせというアナウンスが頭の中を駆け巡る――いやいいんだけど、どうせ最初から勝つつもりなんてないし。





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「佳主馬くん知ってた? レタスって軽い方がふわっとしてやわらかくて美味しいんだって」

左右のてのひらに一つずつ緑の小玉を乗せて、重さを量りながら健二さんが口を開く。
そうなんだ……とか返した自分の顔は、相当緩みっぱなしだったに違いない。
もちろん知ってたけどね。愛しい人の言葉から聞くと新鮮に聞こえるんだからうそはついてない。
きゅうりはトゲが痛い方がいいんだよ、とか。オクラは濃い緑色で、うぶ毛がびっしりと生えているものがいいんだよ、とか。アナタどこの主婦ですかといわんばかりの選別に、思わず嘆息する。

「健二さんって、割とできるんだよね、料理。やっぱり慣れとか」
「うん、そうだよ。一人でいることが多かったから、それなりに作れるようにはなるよ。……普段はあんまりしないけど」
「得意料理とか、あるの?」
「あるよー。えーっと……オムレツとか肉じゃがとかリゾットとか」
「へぇー。結構ちゃんとした料理つくれるんじゃな……」
「グラタンとかハンバーグとかローストビーフとかビーフストロガノフとか」
「え、ちょっと……」
「エビチリとか北京ダックとかブイヤベースとか」
「ちょっと健二さん、それ、いくらなんでも」
「……なんていうのは冗談だけど、流石にそこまではできないよ。でも、こんなの作れたら佳主馬くんが喜ぶだろうし美味しく食べてくれたら嬉しいなぁ……とか考えてたら、なんだか僕も嬉しくなっちゃって……って、あれ?」

僕、何言ってるんだろう?……ごめんね――と。

ショッピングカートを押す僕を振り返る気配がしたけれど、とてもじゃないけど答える状態じゃない。

「佳主馬くん…?」

片手で顔を抑えてうつむく俺に、不思議そうに自分の名前を呼ぶ可愛くて最凶な声がする。
どうしてそう、貴方は僕を幸せにするのがうますぎるの。
ふぅ、吐息をついて顔を上げると、きょとんとした無防備な顔で健二さんが俺を見ていた。

「――分かった。俺は美味しく食べるよ、健二さん。残さず全部……ね」
「そう? 佳主馬くん結構食べるから、たくさんあった方がいいよね。えーっと、じゃ、何作ろうかな」

心なしか、一段やわらかくなった愛しい人の声。
どうしよう、もう――飢えすぎて限界――。

「ねぇ……早く食べたい」
「へ? あ? はい、うん??」

細い肩をつかんで引き寄せて耳元に息を吹き込むようにぼそりと囁くと、健二さんは瞬時に顔を赤く染めげて、疑問符いっぱいで瞬きをくりかえした。
察したというよりは反射だよね、わかってる。
でも可愛い。立ち止まって俺を見ている仕草がOZ内での彼のアバターであるリスもどきにそっくりで、小動物みたいだ。
何度も小首をかしげながらも、再び材料を吟味しはじめた相手の後姿を見つめながら、俺は帰宅後に思いをはせる。



――さて。
この天然素材を、いかに調理するべきか……と。





end

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